住宅ローンが残っている自宅はどのように分けるのですか?
離婚するときに住宅ローンが残っている自宅はどのように分ければ良いのでしょうか?
弁護士からのアドバイス
住宅ローンが残っている自宅は財産分与の対象になる?
夫婦が離婚するときに財産を分ける(財産分与)ときには、夫婦が結婚生活中に築いた共同の財産のみが対象となります。
そのため、自宅の土地・建物といえども、結婚前から夫(妻)が持っていたものだったり、親などの親族から夫(妻)が相続・贈与されたものは、夫婦が築いた財産ではないので財産分与の対象とはなりません。
これに対して、結婚後に住宅ローンを組んで土地・建物を購入・建築した場合には、住宅ローンを夫・妻のどちらが支払っていたかに関係無く、財産分与の対象となります。
夫婦共同の財産としての自宅を、結婚生活に使う収入を使って共同して維持してきたことになるので、離婚のときには精算が必要になるのです。
住宅ローンつきの自宅をどのように分けるの?
財産分与で分ける割合は、特別の事情が無い限り2分の1ずつです。
例えば、自宅の土地や建物の所有者の名義(この名義は近くの法務局という役所で登記事項証明書を発行してもらえば分かります)が全て夫だとしても、夫婦共同生活の中で妻が努力したからこそ夫の収入が確保できたと見るので、妻にも2分の1の財産分与が認められます。
もっとも、住宅ローンの残額が自宅の土地・建物の価値を上回っているとき(オーバーローンと言います)と下回っているとき(アンダーローンといいます)では取り扱いが異なります。
ここで、「オーバーローン」「アンダーローン」と言っても、明確なマイナス分やプラス分が計算できるわけではないことにご注意下さい。
夫婦が別居した時点での住宅ローンの残高は明確でしょうが、自宅の土地・建物の価値は売り手と買い手の合意で決まることや、時代とともに大きく値上がりしたり下落したりするので、明確ではありません。
ですから、調停や裁判の中ででオーバーローンやアンダーローンという結論には争いはなくても、そのマイナス分・プラス分を金額として算定することは、自宅を実際に売却しなければ確定はしないことにご注意ください。
1 オーバーローンの場合の分け方
(1)どのように分けるのか?
この場合、自宅の土地・建物をローンを支払って取得するよりも、新たに買った方が安いことになるので、自宅は無価値、つまり0円評価となります。
例えば、住宅ローンの債務者が夫である場合、夫が自宅を取得して住み続ける場合には、ローンの支払も負担してもらうという解決を行います。
逆に、妻が取得して住み続ける場合には、住宅ローンを妻が完済するか、銀行などで妻が借り換えを行って債務者が妻に入れ替えるような手続をとります。
ここで注意しなければいけないのは、住宅ローンはそのままにして、夫から妻に債務者を入れ替えるという手続は銀行実務上ほとんど認めてもらえないということです。
銀行としては、住宅ローンのお金を貸すときに、債務者となる夫について慎重な審査をして決めています。
そのため、同じ住宅ローンで審査済みの債務者を変更(法律上は「免責的債務引受」といいます)することは認めてくれません。
そのため、他の銀行など(同じ銀行でも良いです)で、妻が新たに審査を受けて借り換えをするという手続が必要となります。
(2)オーバーローン分をどのように計算するか?
このように、自宅を取得した夫(妻)が、自宅の価値以上の住宅ローンを支払うことになる場合、「損をした分も相手に半分は負担して欲しい」という気持ちになります。
例えば、住宅がローンを引くとマイナス500万円となり、住宅以外の夫婦の財産は預貯金が合計1,000万円だとしましょう。
この場合、預貯金を分けるときに、マイナス500万円のオーバーローン分を考慮するか、考慮しないか、が問題となります。
ここで、実務では二つの考え方が登場します。
① 財産分与の対象となる財産の合計額を算出するにあたって、債務の全額をプラスの財産から差し引く(通算)するとう考え方(通算性)
② 上記のような通算はせず、オーバーローンの住宅は財産価値ゼロと扱った上で、他の財産のみを分割するという考え方(非通算説)
裁判は、事案によって通算説を採用したり、非通算説を採用したりするので、一律にどちらが正しいとは言えません。
仮に、夫がローンを全て引き継いだとしましょう。
この場合、①通算説によると、オーバーローン500万円の2分の1にあたる250万円を妻が夫に対して支払うべき立場にいます。
そのため、本来であれば、1,000万円の半額である500万円を取得できたところが、そこから夫に250万を渡すことになります。
つまり、夫750万円、妻250万円という財産分与となります。
なお、夫から見ると、妻から受け取った250万円と自分の500万円の中から250万円を、住宅ローン債権者となる金融機関に支払うと、双方とも250万円のプラスとなるので公平だという考え方です。
これに対して、夫が住宅ローンの全額を支払うことで、ずっと住宅を使い続けられる利益が大きいときには、住宅ローンの返済は夫だけの資産形成の性質があると言えます。
そのような事案では、裁判所は②の非通算説を採用します。
この場合、土地・建物の価値を0円と見ますから、預貯金の1,000万円を夫婦で500万円ずつ取得することになります。
この事案でも、どちらの説を採用するかで250万円の差が出るわけですから、事案によって裁判まで争った場合に、判決がどうなりそうか予想しながら調停や交渉をしていくことが大切ということになります。
2 アンダーローンの場合の分け方
この場合には、自宅の価値の方が住宅ローン残高より大きく、財産としてプラスです。
そのため、自宅の価値から住宅ローンの残額(別居時点を基準)を差し引いた額(プラス分)の半額を、住宅に住み続ける夫(妻)が相手に支払う必要があります。
そして、この場合にも、自宅の価値は絶対的な基準がありません。
そのため、自宅の価値について双方で主張をして、どこかで折り合いをつけてプラス分の金額を計算することになります。
この場合にも、双方でプラス分の金額について合意がどうしても出来ない場合には、自宅を売却してプラス分の金額を確定した上で、半額ずつ分けるしかないことになります。
頭金を夫婦のどちらかが支払っている場合
夫婦で自宅を取得する場合、住宅ローンの負担を減らすために頭金を支払うことも多いですよね。
この場合、頭金が夫婦の預金など結婚後の財産から支払われている場合には、特別に考慮しなければならないことはありません。
問題は、夫や妻が結婚前から貯めていた預金や親などから贈与・相続したお金から頭金を支払った場合です。
このように、結婚生活とは無関係特に夫(妻)が取得した財産を「特有財産」と呼びます。
この特有財産は財産分与の対象とならず、夫又は妻の単独所有の財産と取り扱われます。
そのため、頭金についても、特有財産から支払われた場合には、財産分与において割合で考慮されます。
例えば、2,000万円の自宅を買うときに頭金400万円を妻の特有財産から支出して、残り1,600万円について住宅ローンを組んだ場合で考えてみましょう。
妻は2,000万円のうち住宅ローンの半額800万円+特有財産400万円を支出したことになります。
そのため、アンダーローンの場合の妻の取り分は2分の1より多くなります。
計算方法としてよくあるのは、自宅の価値からローン総額を引いた額について、残価値特有財産(頭金)を支払った割合(2,000分の400)で妻が先取りをして、残りを財産分与として夫婦で2分の1ずつ分ける方法です。
このようにして、財産分与での精算の時に公平になるようにしています。
自宅の財産分与に伴う税金は?
自宅を夫か妻のどちらかが取得するのではなく、売却する場合には税金がかかる場合があるので注意が必要です。
まず、自宅を取得した額よりも高く売却できた場合には、その差額について譲渡所得税が課税される場合があります。
これに対して、夫又は妻のどちらかが自宅を取得する場合には、「財産分与」を理由にして名義(所有権移転登記の名義)を変えれば、譲渡所得税も不動産取得税もかからないことが多いです。
そのため、不動産の価格が上がっている中で自宅を売却する時には、翌年度に請求が来る譲渡所得税、所得が上がったことで増加する住民税や健康保険料の計算もしっかりした上で判断していく必要があります。
税金のことは細かなルール改正も多いので、弁護士に相談するときにも、税金の専門家である税理士にすぐに確認してもらえるようなコネクションがあるかを確認した方が良いでしょう。
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