自筆の遺言書が書きやすくなります~相続法改正

最近、静岡では雨が多いのですが、他の地域ではいかがでしょう?

 

本来の静岡の天気だと、9月~10月の頃は毎日秋晴れの日が続いていたので、ちょっと残念な気持ちです。

 

「まさか、このまま冬に入ってしまうのかな?」と心配していたら、昨日の天気ニュースでは、また暑くなるということでした。

 

喜んで良いのか微妙ですが・・・

 

さて、改正された相続の法律が皆さんにも適用される日(施行日)がいよいよ近づいてきました。

 

一番近いものは、自筆の遺言を書きやすくするための改正で、これは来年の1月13日(約4ヶ月後)に迫っています。

 

では、どのように変わるのでしょうか?

 

現在は、自筆つまり手書きで遺言書を書く場合には、その全ての文章を手書きにする必要がありました。

 

遺言書の本文、例えば「遺産のうち、○○の土地建物は相続人Aに、預貯金は全て相続人Bに相続させる」というようなところは、遺言をする人が手書きで書くべきことは理解出来ます。

 

ところが、現在の法律では、本文だけでなく、遺産を特定するためにまとめたもの(財産目録)まで手書きで書く必要があります。

 

遺産の種類が多かったり、遺言をする人が何人かの相続人に遺産を別々に分けて渡したいときには非常にやっかいなことになります。

 

例えば、土地がある場合には、その場所、地目(宅地・農地などの区別)、面積などを書かなければなりません。

 

預貯金であれば、金融機関と支店名だけでなく、普通預金か定期預金などの区別や口座番号を書かなければなりません。

 

パソコンが発達していなかった時代は良かったのでしょうが、今では複雑な財産をまとめるには、ワードかエクセルを使う方が圧倒的に便利です。

パソコンを使う農家の男性のイラスト<designed by いらすとや>

パソコンに詳しくなければ、土地なら法務局で登記事項証明書をもらって、預貯金ならそれをコピーして特定できれば便利です。

 

そこで、来年1月13日以降に書く遺言では、本文は全部自筆で書かなければなりませんが、財産目録はパソコンで作ったり、登記事項証明書や通帳のコピーをつけることで対応ができるようになります。

 

但し、筆で書いていない財産目録やコピーには、遺言をする人が、1枚1枚全てに、署名して印鑑を押すことが必要です。

書類に判子を押している人のイラスト(男性)<designed by いらすとや>

この印鑑は実印でなくても構わないのは、現在と一緒です。

 

更に、法制審議会の解釈では、この財産目録などで押す印鑑は、本文の印鑑と一緒でなくても構わないとされています。

 

もっとも、裁判で信用性が低くなる可能性もあるので、同じ印鑑で(できれば実印で)押すのが安全だとは思います。

 

この改正で。自筆の遺言がだいぶ書きやすくなったとは思います。

 

来年の1月12日までに遺言を書くと現時点での厳しい規定が適用されますが、翌日13日以降の日付で遺言が書かれていると、書きやすい新法が適用されます。

 

今、自筆の遺言を書こうとしている方は、緊急性がない限り、来年の1月13日以降に延ばしたり、書きかえたりすることも考えたらいかがでしょうか。

 

ただ、遺言書の本文については変わらず厳しい規定が適用されますので、うっかりと勘違いしないことが大切でしょう。

 

 

相続の一般的なご説明についてはこちらをご参照ください。

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弁護士はどこまで秘密を守るの?

先週、とても涼しい日がありましたね。

 

その後、全国ニュースでも一時期のような最高気温の話が出てこないので、静岡だけでなく全国的に恐ろしいような高温はお休みのようです。

 

このまま、涼しくなって心地よい夏から秋が長く続くと良いですね。

 

さて、弁護士には秘密を守る義務があることはご存知の方も多いと思います。

 

根拠になるのは、弁護士法という法律の他に、日弁連が定めた弁護士職務基本規程があります。

 

この規程は次のように定めています。

 

「弁護士は、正当な理由なく、依頼者について職務上知りえた秘密を他に漏らし、又は利用してはならない」

 

また、法律では「弁護士であった者」も守秘義務を負うことを定めているので、弁護士を辞めても依頼された事件のことは秘密にしなければいけません。

ロックされたフォルダのイラスト<designed by いらすとや>

では、秘密にしなければならない情報とはどの程度の範囲なのでしょうか?

 

この点については、先ほどの規程の解釈で色々と議論はされますが、特に依頼者の方が気になるのは

「正当な理由」で秘密を開示できるのはどのような場合なの?

という点でしょう。

 

日弁連の委員会が発行している本の解説によると大きく分けて3つの場合があると言われています。

 

まず、
① 依頼者の承諾がある場合
です。

 

当たり前のように感じますが、この承諾は「明示」でなくても「黙示」でも良いとされているので、解釈の余地が出てきます。

 

つまり、依頼者から明確に「知らせても良いですよ」という承諾をもらわなくても、通常は承諾があるだろうと推測できる場合には正当な理由があるということになるのです。

 

例えば、皆さんが市町村の無料法律相談に行かれたとします。

 

このとき、仕切られた部屋で弁護士と1対1で相談をすることが多いのですが、ここで弁護士が聞いて相談票にメモしたことは皆さんにとって重大な秘密ですよね。

 

ですから、弁護士は外でその情報を開示することはないのですが、法律相談をした市町村の担当職員に相談票を渡すことになるので、その限度では秘密を外部に出すことになります。

 

もっとも、通常は市町村の無料法律相談に行くにあたっては、担当職員がその相談票を受け取ることは想定しているはずなので、黙示の承諾があると解釈するのです。

 

結構、難しいのはニュース性が高い刑事事件で弁護人になったときに報道機関にどこまで情報を開示するかです。

テレビの中継のイラスト<designed by いらすとや>

全く何も言わないというのが安全にも思えますが、ニュースで事実と異なる印象を持たれてしまうと、被疑者や被告人のためにならない面もあります。

 

ですから、例えば、無罪を主張する方針のときに冤罪の根拠となる情報を一部開示するとか、有罪を認めている場合に被告人の反省の言葉を伝えるなどはむしろ弁護人の腕のみせどころでもあります。

 

しかし、被告人が裁判手続の中で、「否認→自白」や「自白→否認」と変わることも珍しくありません。

 

そうなってしまうと、弁護人が報道機関に伝えたことが逆に悪印象となってしまうので、そこまで予測して判断しなければなりません。

 

弁護士の仕事の能力は判断力で大きな差が出ることは以前お話したと思いますが、ここでもその判断力が求められることになります。

 

次の正当な理由としては
② 弁護士の自己防衛の必要がある場合
があげられます。

 

弁護士をしていると、相手方から攻撃を受けることはもちろん、関係者や依頼者からも攻撃を受けることがあります。

 

このとき、弁護士が自分の正当性を説明するためには、必要な限度で秘密を開示することが認められます。

 

例えば、弁護士が損害賠償請求訴訟を起こされるなどの攻撃をされた場合には、その請求に理由がないことを証明するために、依頼者から得た情報でも証拠として提出することができます。

 

弁護士自身が紛争の当事者となってしまうことは余り好ましくないことなのですが、自分の身を守るためにはやむを得ないということでしょう。

 

そして、更に
③ 公共の利益のために必要がある場合
には開示が認められます。

 

アメリカで実際にあった事件で、殺人事件の弁護をしていて、被告人から「他にも若い女性を殺して捨てた。捨てた場所は○○だ」と打ち明けられた弁護人がいました。

 

実際に弁護人が、被告人から聞いた場所へ確認しに行ったところ、遺体があったそうです。

 

しかし、その弁護人は守秘義務を徹底して守り、行方不明となっている被害者の父親から聞かれても秘密を守りました。

 

この弁護人は刑事訴追や懲戒請求をされましたが、いずれも「責任はない」とされました。

 

もっとも、世論から大きな批判を受けて廃業せざるを得なくなったとのことです。

 

これだけ弁護士の守秘義務は厳しいのですが、これはギリギリの事案でしょう。

 

日本でも、依頼者が殺人や重大な傷害を現実に犯そうとしており、これを防止する緊急性が高い場合には、警察などに情報開示しても、「正当な理由」があることになり守秘義務違反ではないとされています。

 

もっとも、民事事件でも重大な紛争の場合には本気ではなくても「殺してやりたい」という言葉をつい言ってしまう依頼者も珍しくはありません。

 

ですから、正当な理由があるかについて弁護士にも慎重な判断が必要です。

 

例えば、依頼者に強い暴力的傾向があり、具体的に殺害の準備と実行の日を決めていることを聞いてしまい、それを止めても聞こうとしないというような場合に限られるでしょう。

 

さすがにそのような場合には、その依頼者の依頼を辞任して、(推定)被害者に避難するよう連絡することは正当と判断されると思います。

 

では、詐欺などの財産犯を犯すことを聞いてしまった場合にはどうでしょう?

詐欺師のイラスト<designed by いらすとや>

過去には守秘義務が優先するので弁護士が情報を開示することは一切許されないと解釈されていました。

 

ただ、重大な経済犯罪が増えていることも最近では考慮すべきという意見もあります。

 

例えば、「株式会社てるみくらぶ」の顧問弁護士をしていたらどうでしょうか?

 

この事件は、格安旅行会社であるてるみくらぶが経営破綻を隠して、旅行代金をもらい続けて破産したため、非常に多数の人が旅行にも行けず、代金の返還も受けられなくなった事件です。

 

顧問弁護士として破産の相談を受けている最中も旅行代金を受け取り続けていた場合、当然、これをやめるように経営者に言わなければなりません。

 

しかし、弁護士が言っても会社自体が運営を継続していたら、結局、旅行に行けないのに代金を受け取り続けることになってしまいます。

 

この場合、秘密を開示することに正当な事由があるか?は難しい問題です。

 

あくまで、弁護士は民事事件として破産申立の依頼を受けただけで、捜査機関ではないからです。

 

もっとも、このようなことを会社が続けると結局は、破産手続でも紛糾して会社や代表者のためになりません。

 

強く経営者を説得して営業を止めさせるしかないでしょう。

 

それでも止めない場合には、辞任することになると思います。

 

日弁連の説明によると、財産的な被害の場合で例外的に守秘義務の解除が認められるのは、依頼者が弁護士の肩書きを利用して詐欺的行為を行おうとしていることが発覚したような場合とされています。

 

いままでご説明したとおり、弁護士の守秘義務は非常に厳しいものであり、だからこそ依頼者の方は安心して誰にも話せなかったことを相談できるのです。

 

私は、もともと子供のころから友達の秘密をバカ正直に守って、気づいたら私だけが秘密にしていたという悲しい過去も・・・

 

そのため、秘密の開示を求められたときには悩むことになりそうです。

 

一長一短ですね。

 

最後までおつきあいいただきありがとうございました。

 

 

「弁護士のお話」の過去ブログ記事についてはこちらをご参照ください。

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遺産の価値をお金で計算できるの?

暑い日が続いていますね。

 

ニュースを見ていたらアフリカのサハラ砂漠あたりでは50℃を超える最高気温を記録したとのことです。

 

私が読んだサハラ砂漠に関する本には、高温、乾燥、砂で肺が炎症を起こしてしまうので外出を控える必要があると書いてありました。

 

日本でも昨日、埼玉県の熊谷市で41.1℃を記録して、日本最高記録を塗りかえたと報道されていました。

暑い人のイラスト(女性)<designed by いらすとや>

こんな記録更新はなくてもいいような気もしますね。

 

さて、今回は相続のお話です。

 

相続が起きたときに、遺産がどのようになっているかは気になりますよね?

 

ご自分は相続しないというつもりでも、遺産の価値は確認する必要があります。

 

なぜなら、遺産にはプラスの価値のあるものだけでなく、借金のようなマイナスになるものも含まれるからです。

 

相続のときに、「私は相続を放棄したから関係ありません。」とおっしゃる方がいます。

 

確かに、家庭裁判所に相続放棄の申請をしっかりとして、受理証明書を受け取っていれば相続人ではないので関係ないといえます。

 

ところが、遺産分割協議書という書面にご自分の取り分ゼロで署名した場合を「放棄」と思っている方も多いです。

 

遺産分割協議書に署名する形だと、お金や不動産などの財産は相続しませんが、借金は、それとは無関係に相続されることになります。

 

そのため、相続を親族の話し合いで処理する場合には、遺産の価値がプラスかマイナスかをしっかりと計算しておく必要があるのです。

 

この計算をするにあたって、遺産の中で金銭的な評価をするのが難しいものとしてよくあるのが土地・建物や株式です。

 

今回は株式を例にして考えてみますね。

株券のイラスト<designed by いらすとや>

まず、相場のある株式については、その相場で価格が決まりますから、それほど評価は難しくありません。

 

相場がある株式の株価は、インターネット検索で「○○会社 株価」と打ち込めば、ある程度正確な株価がすぐに出てきます。

 

例えば、東京証券取引所に上場されているような株式だったら、売却予定の日を決めてその日の1株の最終価格(終値)を基準にすれば、これに株式数をかけるだけで金銭的評価ができます。

 

そのため、実際に相続で金額が問題になる株式は、証券取引所への上場などがなく、相場が分からない中小企業の株式です。

 

そして、相続ではむしろ中小企業の株式を相続するケースの方が圧倒的に多いのです。

 

このような中小企業では、インターネット検索をしても株価は出てきません。

 

そこで、基準となる一般的な計算方式が採用されますが、その方式も一つではなく様々な方法があります。

 

よく使われる基準だけでも、
① 純資産方式
② 配当還元方式
③ 類似業種比準方式
④ 収益還元方式
などがあります(そのくわしい内容はひとまず置いておきます)。

 

相続税の申告については税理士が使う評価基準がありますが、弁護士が関わるような紛争のときにはその基準もただの参考資料にすぎません。

 

相続税で使われる基準は課税の面からなされるのに対して、紛争の中での価値需要と供給、つまり「どれだけ株式が欲しいか?」が基準となるからです。

 

例えば、毎年の決算報告書で利益が出ていないように見えても、貸借対照表や実際の評価では会社に多額の資産があれば、会社の代表者(社長)は株式を手放したくありません。

 

ですから、株式を相続した相続人は、会社が赤字決算でも株式の評価を高く交渉できることもあります。

 

逆に、会社で一定の利益を出していても、デザイン会社のデザイナーが社長の場合には、その利益は社長個人の能力で生み出したものです。

 

そのため、社長から「会社の株式は要らない」と言われて、新会社を設立されてしまったら、相続した株式はほぼ無価値となってしまいます。

 

このように、相続で株式の評価をする際には、上の①~④の計算方法は参考にはなるものの絶対ではありません。

 

そして、注意しなければならないのは、会社の顧問税理士が株価の評価をして相続人に伝えてくるときです。

会計士のイラスト(男性)<designed by いらすとや>

 

会社の顧問税理士は社長と信頼関係があるので、社長に有利な株価=他の相続人に不利な株価の算出をすることが現実に見受けられます。

 

そのため、株式を相続したときには、ご自分にとってその評価が不利になりやすい事情があるかを十分に考えてから遺産分割協議書に署名・押印をした方が良いと思います。

 

では、熱中症にならないよう十分な水分補給をして、暑い夏をのりきっていきいましょう。

 

 

相続の一般的なご説明についてはこちらをご参照ください。

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別居するときに子供を連れていってもいいの?

関東地方で梅雨が明けたという報道と、九州や関西での大雨被害の報道にギャップを感じます。

 

静岡でも天候不順で急に大雨が降ったかと思うと、太陽が出てきたりしているので日本全体の天候がおかしくなっているように思えます。

 

地球温暖化の影響があるのでしょうか。

 

さて、夫婦が離婚するときには、その前に別居することが多いです。

 

妻が出て行く場合もあれば、夫が出て行く場合もあります。

 

そのときに、勝手に子供を連れて行って良いのか?と悩むことが多いようです。

 

弁護士にアドバイスを求めれば、ほぼ「親権をとりたいのであれば、連れて行くべきです。」と答えるでしょう。

 

それ自体は正しいのですが、連れて出て行ったからといって親権がとれるわけではないことにも注意が必要です。

 

離婚後もどうしても子供と一緒に暮らしたい配偶者は、離婚にあたって親権を取得する必要があります。

 

そして、親権者を判断するにあたって、現在、子供と一緒に暮らしていることは大きな強みです。

 

なぜなら、裁判所で判断されるとき、「子供の生活環境を大きく変えて不安定にしたくない」という要素が入ってくるからです。

 

そのため、弁護士は家を出るときに子供を一緒に連れて行くことをすすめるというわけです。

<designed by いらすとや>

しかし、昨年、子供(保育園児)を連れて出て行った父親に対して、母親からの子の引き渡し請求を認める判決が出されました(東京高等裁判所)。

 

母親も離婚後に子供と一緒に暮らしたかったのでしょう。

 

母親から依頼を受けた弁護士は、離婚調停で話し合いをしたのでは、その間に父親との同居期間が増えて、子供の世話をしたという実績を作られてしまうと判断したのだと思います。

 

そこで、まず、子供を依頼者である母親の元に取り戻す裁判を考えたのでしょう。

 

子供を連れ出した日から28日目に裁判申立がなされている(弁護士が引き受けてからは数日しかなかったかもしれません)ので、緊急で資料を集めて申立をしたことがうかがわれます。

 

このように適切な手段を選択できるか?、事件の先を見て緊急性の程度を判断できるか?に弁護士の腕の差が出ると思います。

 

同業者からみると、この母親側の弁護士の腕が良いことが推測できます。

 

裁判所が、母親による子供の引き渡し請求を認めるか判断するにあたって主に検討した要素は次のとおりです。

 

① 同居中における子供との関わりの程度や養育態度

② 別居に至るにあたって子供の生活に配慮したか?

③ 別居後における子供の世話のしかたや生活環境

④ 子供が同居するのにどちらの親の方が子供の養育に適切か

 

まず、の点については、母親が専業主婦の間は母親が主に子供の世話をしていて、母親が仕事をするようになってからは、両親で協力して子供の世話をしていたと認定しました。

 

父親は、「母親が子供の前で自分に対して暴言を吐いたり暴力を振るったりしていた」と主張しましたが、証拠がないため認められませんでした。

 

やや、母親有利という感じですね。

 

次にの点については、夫婦に喧嘩が絶えないなかで、全く子供についての話し合いもなく子供を連れてアパート暮らしをしたことには問題があるとしています。

 

せめて、前から子供が行ったことがある実家に連れて行ったのであれば、生活の変化についてもそこまで問題視はされなかったでしょう。

 

父親が不利になってきました。

 

更にの点については、父親が子供と同居している間、虐待のような問題はありませんでしたが、近隣の住民から「たびたび子供の泣き声と男性の怒鳴り声が聞こえ、今日も聞こえる」という通報がありました。

 

児童相談所が実際に訪問しましたが、虐待の事実などは認められませんでした。

 

もっとも、児童相談所に通報されていたという事実だけでも、父親に大きなマイナスポイントがついたことが推測されます。

 

最後にの点では、父親には近くに子育てを手伝ってくれる親族がいなくて、離れた所にいる祖父もまだ働いていたので養育の援助は難しい情況でした。

 

これに対して、母親側の両親(子供からみると祖父母)は、子供との関係が良好であり、母親は裁判のときにはその両親のいる実家に戻っていたので、子供をひきとったら実家で両親と生活して、子供に適切な養育環境を用意できるとしました。

 

別居後の子供の生活環境としては、母親に軍配があがりますね。

 

その結果、裁判所は主に4つの要素を考慮して、子供の健全な生育のためには、母親とその実家で暮らすことが望ましいとして、母親からの子の引き渡し請求を認めたわけです。

<designed by いらすとや>

この裁判がある以上、離婚調停や離婚訴訟で戦っても父親が親権をとることは難しいでしょう。

 

つまり、離婚で親権を争う前に勝負はついてしまうということです。

 

事件の先読みができる弁護士かどうかは、依頼する方にとって大きな問題だということですね。

 

これは判断力・洞察力があるかということなので、法律相談でちょっとした日常会話をして弁護士の洞察力・判断力の程度を推測して選ぶのも一つの方法だと思います。

 

最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。

 

 

離婚の一般的なご説明についてはこちらをご参照ください。

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スポーツの怪我と犯罪

ロシア・ワールドカップ盛り上がっていますね。

 

私も日本代表を生中継のTVを見て応援していたため、寝不足の日があったりしました。

 

前回の優勝国ドイツが敗退したように、ホスト国以外で予選リーグを突破するのは、どの国にとっても非常に難しいでしょう。

 

素直に、西野監督や選手たちを讃えたいと思います。

 

さて、スポーツといえば怪我がつきものですよね。

 

野球やサッカー、更に言えばボクシングは怪我することが前提です。

 

でも、普通は人を怪我させたら犯罪です。

 

それが故意なら傷害罪過失なら業務上過失致傷罪になるはずです。

 

野球でデッドボールで怪我をさせたり、サッカーでイエローカードやレッドカードが出るようなプレーで怪我をさせたら、少なくとも過失致傷罪になりそうです。

 

しかし、そんなことを言っていたら激しいボディコンタクトを伴うスポーツが全くできなくなってしまいます。

 

ボクシングにいたっては、それ自体犯罪として禁止されてしまいますよね。

ボクシングの試合のイラスト
<designed by いらすとや>

 

そこで、刑法35条「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」という定めがあります。

 

スポーツに伴って予測できる範囲での怪我については、この刑法35条の「正当な業務」に含まれるため違法性が無く、犯罪とはならないのです。

 

例えば、アメリカンフットボールは激しいボディコンタクトを伴うスポーツですから、プレーでの怪我はつきものでしょう。

 

そのため、ゲームの性質や歴史からみてプレーに付随して起きうる怪我であれば、その怪我が非常に重かったり、不運にも亡くなってしまっても、そのきっかけを作った選手は業務上過失致死傷罪には問われません。

 

しかし、ゲームと関係のないところでの行為で怪我をさせた場合には「正当な業務」とはいえないため刑法35条が適用されずに犯罪が成立します。

 

例えば、日大アメフト部の事件の選手は明らかにプレーが切れたところで危険なタックルをしているので、「正当な業務」とはいえません。

 

そのため、傷害罪実行犯として犯罪が成立するのです。

 

もっとも、犯罪では実行犯が一番悪いと決めつけることはできません。

 

裏に事件の計画を作っていた首謀者がいるケースも多いからです。

部下を操る上司のイラスト
<designed by いらすとや>

 

日大アメフト部の事件では多くの方がそれを理解されていると思います。

 

刑法では、この首謀者を共同正犯という罪名で処罰します。

 

ここでは、怪我をさせることを監督が指示をしていることが証明できれば、「共同正犯」として監督を傷害罪で処罰できるでしょう。

 

もっとも、検察官が証明すべき事実は「監督と選手との間で、人に怪我をさせることの意思連絡」となり、この証明は相当厳しいといえます。

 

監督本人が指示を否定している上、共謀をしているところを撮影した動画などの客観的証拠もないようでは起訴はできないと思います。

 

傷害罪のような強行犯の場合には、最も処罰しやすい実行犯=選手を逮捕して責任を追及するのが通常です。

 

そして、この事件でも選手に「自分が試合に出たいという身勝手な動機で何の罪もない他の選手に不意打ち」したという責任がるという見方もできるでしょう。

 

ただ、この選手の自白から首謀者の可能性が高いとされている監督が処罰できないのに、選手だけ処罰することは社会の納得は得られないですよね。

 

また、今後の選手が立ち直る可能性も考えなければなりません。

 

全く犯罪と関係のないスポーツから、監督や周囲の圧力で学生が突然犯罪に関わってしまったという今回の事件は、他の学生でも起こりうるものだからです。

 

そして、人格が固まっていない年齢であることやこれから判断力を鍛えることができる学生であることから、深く反省して二度とやらないことはより強く期待できるでしょう。

 

その意味では、この選手に傷害罪が成立することは間違いないのですが、不起訴などの軽い処分をして今後の社会貢献に期待するという考え方にも一理あるとは思います。

 

せっかく爽やかなスポーツですから、できるだけ怪我をさせず、怪我をしないに越したことはありません。

 

ワールドカップでも日本代表の選手たちも、怪我なく、決勝トーナメントで感動できる試合をして欲しいですね。

 

 

刑事弁護についての基礎知識についてはこちらをご参照ください。

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ウソとホントの間

暑くなってきましたね。

 

静岡では6月6日に梅雨入りしたと報道されていますが、雨よりも晴れの日の方が多いので実感がありません。

 

ひとまずは、暑くなっても、雨でも、「スギ花粉がないだけで快適だな」と思うようにしています。

 

さて、マンガやアニメで有名な名探偵コナンで
「真実はいつもひとつ」
という決めゼリフがありますよね。

 

では、人が事件を扱う場合に真実とウソに分けて考えられるのでしょうか。

 

私は、真実とウソの間に広いグレーゾーンがあると思っています。

 

裁判手続で考えてみましょう。

 

裁判所が認定する事実が、(仮に神様がいるとして)神様が見た事実と一致するのであれば、真実は一つと言えるでしょう。

 

しかし、裁判とは、人が人を裁くという性質のものです。

 

そして、裁判手続では明白な証拠は少なく、判決を下す多くの場合には法廷で当事者や証人の話を代理人弁護士や裁判官が聞く機会(尋問手続)を設けます。

 

神様から見た真実を人が追求する場合には、証人には真実を話してもらわなければなりません。

 

でも、この尋問手続きで、多くの裁判官は、当事者や証人に対して
「真実を話して下さい」
とは言いません。

「真実」のイラスト文字
<designed by いらすとや>

 

「記憶に従って、正確に話して下さい」
と言う場合が多いのです。

 

どうしてでしょうか?

 

これを、証人が法廷で話すことを材料に考えていきましょう。

 

証人が事件に関わってから証言するまでには、以下の過程をたどります。

 

① 見たり聴いたりする
     ↓
② それを記憶して証言の時まで保持する
     ↓
③ 保持した記憶から法廷で言葉で再現する

 

法廷で意図的にウソをつく人は、このの所で、記憶と異なる証言をしているということです。

嘘つきのイラスト
<designed by いらすとや>

 

そのため、「ウソをつかないように」という警告は、「記憶に従って正確に」という言葉になるのです。

 

しかし、真実と違うことを法廷で話してしまうのは、意図的にウソをつく場合に限りません。

 

まず、の段階で見間違い、聞き間違いがありえます。

 

その結果、結果的に法廷で事実と異なることを話してしまうことがあります。

 

次に、の段階で記憶が薄れたり、自分の価値観やものの見方により記憶が偏ることが誰にでもあります。

 

そうなると、当然法廷で証言するときには、本人も意識せずに事件当時に現実に見たことや聞いたこととはずいぶん内容が異なることを話すことになります。

 

更には、自分が記憶したことを、相手の質問や聞きたいことを考慮して、上手に言葉にできる人と苦手な人がありますよね。

 

また、緊張すると、記憶していたこととズレたことを話してしまうことも珍しくありません。

 

つまり、を適切に行えない場合です。

 

ここの部分は、代理人弁護士が、裁判で実際に苦労するところです。

 

事件を引き受けた数年前から一貫して同じことを強く言い続けていて、代理人としても真実だろうと思っていたことを、不利益にもとられかねない微妙なニュアンスで法廷で話してしまうことがあります。

 

 

もし真実と違うことを言ったら、神様が怒る「真実の口」※のようなシステムがあれば、間違いはおきにくいのかもしれません。

真実の口のイラスト
<designed by いらすとや>
※ローマにある石の彫刻。偽りの心で口に手を入れると噛みきられるなどの伝説がある。

 

でも、見間違い、記憶違い、説明下手、緊張が理由で真実と異なることを話してしまっても手を噛みきられてしまうのでは、誰も証言したくないですよね。

 

事件を人が扱う以上、
「人が認識できる真実はひとつとは限らない」
という方が正確かもしれないと思っています。

 

 

「裁判手続で知っておきたいこと」の過去記事はこちらへどうぞ。

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遺言書だけでは足りないかも

先日、5月26日の土曜日に、御前崎港のかつお祭りに行ってきました。

御前崎付近には御前崎港や地頭方港など、美味しい魚が水揚げされるので、イベントもにぎやかでした。

 

大漁旗が盛大に吊されている中に、鰹1尾ごと売っていて、頭をおとしてくれる場所もありました。

さすがに1尾を買っては食べきれないので、切り身を買っていただきました。

 

厚みがあるのに、歯ごたえは柔らかくてとても美味しかったです。

 

さて、今回は相続のお話です。

 

最近では、公正証書遺言を作る方も増えてきています。

 

民法は、自分の財産は自分の意思で自由に管理したり処分したりできるという原則(私的自治の原則)を採用しています。

 

ですから、遺言で自分が亡くなった後の財産の処分を定めれば、民法が定めている法定相続分に優先します。

 

そして、遺言とともに知識も広まっているのが遺留分

 

遺言をもってしても奪えない相続人の取り分です。

 

これは、
配偶者や子供の場合には本来の法定相続分の2分の1で、
親や祖父母が相続人のときには、本来の法定相続分の3分の1
となります。

 

例えば、妻Bと2人の子供C、Dがいる男性Aが、妻Bに全て渡すという遺言を書いたとします。

 

夫       妻
A=======B
    |
    |
    |
 --------
 |          |
 |          |
 C---E      D
   |
   |
   F

 

その場合、子供C、Dの遺留分は本来の法定相続分である4分の1の半分の8分の1ずつということになります。

 

さて、このとき妻Bと子CはAと一緒に暮らしていて、Dとの関係は余り良くなかったとしましょう。

遺産争いのイラスト<designed by いらすとや>

 

この場合、夫であり父であるAの財産が多額だったり、不動産が主だったりすると、Dに遺留分にあたる8分の1を金銭で分けることが難しいかもしれません。

 

そこで、Bがとるべき戦略として使われるのが養子縁組です。

 

養子縁組とは、市役所などに養親になる人と養子になる人が署名をして養子縁組届を出すことで成立します。

 

この養子縁組で出来た親子関係を「法定血族」と呼んで、実際の血の繋がった自然血族の子と全く同じように相続でも扱われます

 

事例で考えてみましょう。

 

例えば、Cが結婚していて妻Eと子供Fがいたとしましす。

 

ここで、BがEとFとを自分の養子にするという対策をここでは取ることになります。

 

これにより、Dの遺留分を削れるわけです。

 

子供の遺留分は簡単な式にすると

遺産の額×1/2÷子供の数×1/2

となります。

 

そのため、子供の数が増えると自動的に他の子の遺留分が減る関係になるのです。

 

今回の事例でも、EとFが養子縁組をしていないときには、子供の数は2人でしたからDの遺留分は8分の1でした。

 

ここに、EとFという養子が2人増えたことで、Dの遺留分は

1/2÷4×1/2=1/16

つまり16分の1となります。

 

遺産が多額な場合、渡したくない遺留分を半分に減らせるということは大きな魅力です。

 

もっとも、Dからしてみたら、自分の遺留分を削るためだけの養子縁組だとすれば文句を言いたいことでしょう。

 

実際、養子縁組は遺留分を減らすためだけにしたのでは無効で、実質的な親子関係を築く意思が養親と養子の両方になければいけません。

 

もっとも、遺留分を減らすためだったのか?それとも、本当に親子関係を築くつもりだったのか?は意思の問題のため証明が簡単ではありません。

 

裁判になったときには、例えば
縁組した相手が身内か全く知らない人か?
縁組が死亡直前ではなかったか?
縁組のときに養親(事例ではA)の判断能力に問題はなかったか?
養子縁組をした人数が多すぎないか?
など客観的な事情から判断していくことになるでしょう。

 

なお、これは相続する権利のお話で、相続税の節税と考えたときには、また別の制約がありますので、そのあたりは税理士にご相談ください。

 

いずれにせよ余り露骨な相続対策をしてしまうと、法律でも認められないということですね。

 

 

相続の一般的なご説明についてはこちらをご参照ください。

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宴会で暴行があると会社に責任が?

暖かい、というか暑くなってきましたね。

 

5月といえば初鰹。

 

漁港で有名な焼津(やいづ)で「春の鰹三昧」というイベントが行われています。

 

県外の方もご覧いただいているようなので、JR焼津駅の位置関係を説明すると、新幹線が停まるJR静岡駅から東海道本線で西に3駅(約12分)です。

 

静岡からは近いので、先日、私も行って鰹づくしのランチを食べてきました。

焼津駅の近くでも色々な店が開いているので、鰹が好きな方はよかったら。

 

なお、鰹三昧メニューは、1日の食数に限りがあるそうなので、早い時間帯に行かれることをお勧めします。

 

さて、今年の1月に東京地裁で、会社の忘年会で従業員Aが、他の従業員Bを殴る蹴るなどして肋骨を折るなどのケガをさせた事件について判決が出ました。

 

当然、Aは傷害罪になりますし、Bに対してケガをさせたことについて損害賠償責任を負います。

 

ここで、問題になったのは、Bが会社にも損害賠償請求をしたことです。

 

民法では「使用者責任」といって、従業員が業務に関連して第三者に損害を与えた場合には、その従業員だけでなく会社や個人事業主(使用者)も被害者に対して直接、損害賠償の責任を負うことが定められています。

 

過去の裁判であった典型的な事件としては、

①会社の自動車で営業をしているときに交通事故を起こしてしまった場合

②業務でフォークリフトを運転していて同僚を跳ねてしまった場合

などがあります。

 

どうして使用者が責任を負うのかという主な理由としては、

① 大きな事故になった場合に、加害者に損害賠償できるだけの資産がないと被害者が賠償を受けられないので、それを救済する必要があること

② 使用者は従業員を使って利益を上げているのだから、その業務に伴って人に被害を生じた場合には使用者も責任を負うべきこと

があげられます。

 

そして、この使用者責任には「事業の執行について」という要件がありますから、宴会が会社の事業の執行と言えるのかは問題になります。

忘年会のイラスト「サラリーマンの飲み会」

<designed by いらすとや>

 

従来から、裁判例では、この「事業の執行について」という要件を厳密に業務に限定せず、使用者(会社)の活動が社会的に広げられたと認められるものを含めています。

 

例えば、会社の自動車を自由に運転できる従業員が、その自動車を勤務時間外に私用で運転して事故を起こしても、会社に責任を認めているのです。

 

かといって、純粋なプライベートまで会社の責任としたのでは、会社は怖くて従業員を雇えません。

 

そこで、「事業の執行について」の範囲を適切に決める必要が出てくるのです。

 

今回の東京地裁の判決は、ギリギリの事案だと思われます。

 

会社の忘年会で起きた事件だったのですが、一次会ではなく、二次会で起きたのものです。

 

二次会で、従業員AがBに仕事ぶりを注意したところ、Bが「めんどくせえ」と言ったところから、Aが怒ってBに暴行をしてしまいました。

 

このような二次会での従業員同士のトラブルに会社が責任を負うのは重いように感じますが、この事件には特殊性がありました。

 

従業員Bは、上司から念を押されて全員出席と聞いて忘年会に出席することにしたこと、そして、一次会が、深夜から開かれ、二次会が電車がなくなった午前2時30分から開かれたことです。

 

一次会は、会社の上司が段取りをつけるということで会社の懇親会という性質を持っています。

 

そして、一次会の開始が遅くて、終電が無い時間に終わった場合、自力で帰ることは難しいことも多いでしょう。

終電を逃したサラリーマンのイラスト

<designed by いらすとや>

 

もっとも、一次会でタクシーなどで帰った従業員がいれば、二次会は自由参加ということになりそうですが、この事案では二次会も全員参加だったようです。

 

この二次会の「全員参加」というのがたまたまそうなったのか、半強制的な雰囲気だったのかは、争いになりそうなポイントです。

 

会社側からすれば、従業員が仕事上でのミスで損害を生じるのであれば予測できますが、従業員同士のトラブルは予測しにくいでしょうね。

 

ただ、歓送迎会、忘年会など会社が企画する懇親会の性質を持つ場合には、そこでの従業員の行動についても監督義務があると見られることが多いようです。

 

最高裁では歓送迎会から職場に戻る途中に交通事故死をした場合に、業務上の災害と認めています。

 

これらから考えると、会社や個人事業主の方(使用者)としては、歓送迎会や忘年会など懇親会の性質をもつ飲み会を一次会にしっかりと区切るよう注意すべきことになります。

 

被害者側だったら、加害者が会社の懇親会で飲んでいたかどうかは、損害賠償請求をするにあたっては、とても重要な事実になってきます。

 

もちろん、こんなトラブルなど起きず、お酒を飲むときには楽しく飲んで、安全に帰宅するのが従業員も会社もハッピーなのは間違いないでしょうね。

 

 

労働問題のブログ過去記事についてはこちらをご参照ください。

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因果関係で逃げる

今年の2月に水俣病を描いた名著「苦界浄土」の著者である石牟礼道子氏が亡くなったということで、改めて読み直す機会がありました。

 

皆さんも、水俣病(熊本県水俣市)と言えば、日本四大公害被害の一つとしてご存じでしょう。

 

つまり、現在では

工場が港に高濃度の有機水銀を排出
       ↓
魚介類や海藻類が有機水銀を吸収して蓄積
       ↓
この魚介・海藻類を食べた人の身体に有機水銀が蓄積
       ↓
脳や重要な臓器に重大な障害が出て人が水俣病で死亡・後遺症発症

という関係は当たり前の知識として教えられているわけです。

工場のイラスト<designed by いらすとや>

 

当時の昭和30年代には、医学・科学の研究が今ほど進んでいないこともあって、企業側はこのような関係=因果関係を認めようとせず、被害が止まりませんでした。

 

きっと、裁判を起こしたとしても、因果関係が認められることは当時では難しかったと思います。

 

訴えを起こす原告側の代理人になった弁護士からすると、この「因果関係」というのは大きなハードルになります。

 

「因果関係」とは、簡単に言うと、社会生活上の経験からみると、通常その行為からその結果が発生することが相当だとみられる関係をいいます。

 

そして、その判断はあくまで法的な判断のため、医学・科学の知識を補助的に使ったとしても、最終的には裁判所の判断に委ねられることになります。

 

ですから、原告側の弁護士は、裁判官に因果関係をみとめてもらうために様々な証拠を提出していくことになります。

 

これに対して、被告側の弁護士は「その程度の証拠では社会経験上から見ても関連性はない」と因果関係を争います。

 

被告側の弁護士になると、裁判に専門的知識が必要だったり、内容が複雑になればなるほど、「因果関係がない」という所を強く主張するようになります。

 

なぜなら、原告の証明が難しい上、裁判官にも因果関係を認めるには心理的ハードルがあると考えているからです。

 

判決を出す以上、民事事件であっても可能な限り真実に近く、先例として意味のあるものにしなければいけません。

 

ですから、判断するときに法律以外の知識が必要であればあるほど、裁判官は頭を悩ますことになります。

 

例えば、水俣病の因果関係の判断には医学・化学の知識が必須なのに、その専門家でない人が判断するのですから、ハードルが低いわけがありません。

 

それを見越して、被告側の弁護士は「因果関係に逃げる」という手法を取るということになります。

 

もちろん、言いがかりのように全く因果関係が認められないものは論外ですが、裁判になる以上微妙なものが多いのも確かです。

 

今月の27日に四国の高松地方裁判所で出された判決もその手続の中で因果関係が問題となりました。

 

これは、大手ホームセンターのコメリで家具(カラーボックス)を6個買った女性が、家具に含まれるホルムアルデヒドにより体調を崩して被害を受けたとして損害賠償請求をしたものです。

 

これに対して、被告側は、同種の板を使った家具類は約192万台あるが、異変を訴えた顧客は他に一人もいないして、因果関係を争いました。

 

つまり、その女性は別の要素もあって体調不良を起こした可能性もあり、社会経験上からも、そのカラーボックスの成分だけを原因とするのはおかしいという理由です。

 

確かに、人の体調不良は睡眠不足、ストレスなど様々な理由が合わさって生じることが多いため、絶対にカラーボックスが原因と断定するのは難しいでしょう。

 

もっとも、この事件では、二つの点で因果関係を認めやすい事情がありました。

 カラーボックスの板の接着剤から国の指針値を上回るホルムアルデヒドが検出されたこと

 この女性について医師が化学物質過敏症と診断をしたこと

です。

 

高松地方裁判所は、この事情から因果関係を認めて470万円の支払を認める判決を言い渡しました。

 

しかし、これはあくまで化学物質過敏症の女性が原告だったから因果関係が認められたもので、誰が裁判を起こしても認められるというものではありません。

免疫力の弱い人のイラスト <designed by いらすとや>

 

今後、控訴するかどうかは、原告側は悩んでいると思います。

 

控訴審での結論が読めない上に、マスコミに取り上げられるだけで売上に響きそうだからです。

 

さて、最後にちょっと怖いお話を。

 

WHOの下部機関である国際がん研究機関によると、ホルムアルデヒドはタバコの喫煙と同じ「発がん性がある」第1グループに入っています。

 

締め切った部屋でホルムアルデヒドを含む家具を使い続けることは喫煙をしているのと同程度のリスクが生じるという研究結果です。

 

ちなみに、送電線や建物内の電源などからの低周波電場は発がん性は不明とされているのに対して、アルコール飲料はタバコやホルムアルデヒドと同じグループです。

 

電磁波に心配するより、お酒・タバコ・ホルムアルデヒドを含む可能性のある家具(合板で作られた大量の接着剤を使用している安い家具)に注意した方が良いというのが現在の研究結果のようです。

 

しかし、このグループ1であっても、裁判で発がん性との因果関係が現時点の医学や科学では証明することはできないでしょう。

 

この因果関係が明確に証明できるようになったら、健康被害が生じることに対する同意をレジで取られてからお酒を買うことになるかもしれませんね。

 

知った方が良いのか悪いのか、お酒が好きな(強くはありませんが)私には分かりません・・・

 

 

 

「裁判手続で知っておきたいこと」の過去記事はこちらへどうぞ。

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土地から健康被害が生ずる場合の責任は?

静岡では春らしい陽気になってきましたが、昼と夜の気温差が大きく感じられます。

 

おそらく、全国的にそのような気候だと思いますので、体調には十分お気をつけ下さい。

 

さて、フッ素というと皆さんどのようなイメージを持たれるでしょうか?

 

歯磨きに含まれている成分とか、化学記号を連想したりされるかもしれません。

 

詳しい方は、健康被害を起こすリスクのある有害物質という認識を持たれているかもしれません。

 

歯磨きに含まれるような微量のフッ素は直接健康被害はないとされていますが、濃度が大きい場合には中毒症状や健康被害が起きることも指摘されています。

 

そのため、環境省では土壌汚染の原因物質としてフッ素も含めています。

 

土地の売買では、土壌汚染が問題となることが多いのですが、今回ご紹介する最高裁の判例ではフッ素による土壌汚染が問題となったものです。

 

買主は、フッ素工場の跡地を買い取りました。

              <designed by いらすとや>

フッ素工場の跡地ですから、当然、土壌にフッ素が含まれていることは予測できますよね。

 

ところが、この売買契約をした平成3年当時は、フッ素についての環境基準が公に決められていませんでした。

 

ですから、買主は特にフッ素の汚染除去などをせずに土地を転売できるつもりで買い受けました。

 

その後、平成15年2月にフッ素が有害物質として規定されました。

 

おそらく、専門家でない限り、早い方でも高濃度フッ素を健康被害のリスクと認識し始めたのはその頃からではないでしょうか。

 

もっとも、フッ素については、PCBや有機リンのように少しでも入っていたら土壌汚染になるのではなく、一定の濃度以上の場合には土壌汚染となるという規制です。

 

その意味ではフッ素は猛毒というわけではありませんが、一定以上の濃度を持つと汚染が広がるのを防ぐ工事などをしなければなりません。

 

この事案では、土地の汚染が最もひどい箇所では基準値の1,200倍のフッ素が検出されました。

 

このような土壌汚染を除去したり、汚染漏れの防止の工事をすると、その費用が莫大になることが多いのです。

 

そこで、買主は、売主に対して土壌汚染を土地の瑕疵(かし)=欠陥だとして、4億円を超える損害賠償請求をしました。

 

しかし、売買契約時にはフッ素について人の健康被害を引き起こす危険があるとは一般には認識されていないので、売主は土地に欠陥などないと考えて売ったわけです。

 

そこで、売買契約後に有害物質であることが分かって法規制された物質についてまで、売主は損害賠償責任を負うかが問題となりました。

 

最高裁まで争われましたが、結局は否定されました。

 

その最大の理由は、もし売買契約後に生じた瑕疵=欠陥についてまで売主に責任を負わせると、売主は永遠に責任を免れないことになりかねないということです。

 

例えば、フッ素以外の物質で健康被害を生ずるものの中には、まだ科学的にも社会的にも明らかになっていないものもあると思います。

              <designed by いらすとや>

10年後に健康被害が判明する物質についてまで、今の土地を売る人に責任を負わせてしまうと、土地売買自体が成り立ちません。

 

そのため、土地を売るときに健康被害が判明している物質についてだけ、売主に責任を負わせようとしたものです。

 

とはいえ、土地を住居として買う場合には、後で健康被害が分かったのではたまらないという気持ちもありますよね。

 

私の経験から見ると、売主が工場・作業場・廃棄物置場にしていた土地について土壌汚染が問題となるケースが多いようです。

 

もし、土地を購入されることがあったら、以前、その土地が何に使われていたか確認してから決めた方が良いかもしれませんね。

 

 

不動産トラブルの基本知識についてはこちらをご参照ください。

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