多数当事者の債権及び債務~連帯債務を中心に

民法改正(令和2年4月1日施行)

連帯債務を中心とした多数当事者の債権・債務関係について、分類を見直すとともに、債務者間の内部的効果などについて改正をしています(なお、保証債務は別ページに記載)。

 

1 分類の見直し

債務の目的が、その性質上、分割可能なもの(例えば金銭債権)と、分割できないもの(例えば土地明け渡し請求権)とをまず区別した上で、整理することにしました。

旧法では、分割可能か、不可能かを区別する基準として当事者の意思も考慮して「当事者の合意によって不可分とされたもの」は不可分としていました。

改正法では、この部分を削除して「目的が性質上不可分なもの」だけを不可分債権・不可分債務とすることにしました。

 

2 連帯債権の規定を新設

(1)連帯債権とは

債権の目的は性質上可分(例えば金銭債権)ですが、分割せずに複数の債権者それぞれが全部の履行を請求することを許す債権をいいます。

例えば、Aが50万円、Bが50万円を合わせてCに貸した場合、金銭債権は分割可能ですから、本来は、AもBも50万円しかCに請求できません。

それを、当事者の合意で、AもBも100万円を請求できるとしたのが連帯債権です。

ただ、Cは合計して100万円を支払えば良いので、AかBのいずれかに100万円を支払えば債務を免れます。

 

(2)相対的効力の原則(435条の2)

連帯債権者の1人に生じた事由は、他の連帯債権者に効力を生じません。

但し、債務者Cと連帯債権者Aとの間で、連帯債権者Bとの事由がAにも効力を及ぼす旨の別段の意思を表示したときには、その意思に従います。

 

(3)絶対的効力を生ずる事由

絶対的効力とは、連帯債権者の1人に生じた事由が、他の債権者にも影響を及ぼすことをいいます。

① 履行請求・弁済(432条)
連帯債権者は、各自が全ての債権者のために、債務者に対して全部又は一部の履行を請求することができます。

逆に、債務者も、全ての連帯債権者のために、各連帯債権者に履行をすることで債務を免れることがでます。

② 更改・免除(433条)
連帯債権者の1人と債務者との間に更改又は免除があったときは、その債権者の1人が受ける利益の限度で絶対的効力を生じます。

③ 相殺(434条)
債務者が、債権者の1人に対して相殺の援用をした場合、相殺による債権の消滅は他の債権者にも効力を及ぼします。

④ 混同(435条)
債権者の1人と債務者との法的地位が混同した場合(例えば、債務者が債権者を相続した場合など)には、債務者は弁済をしたものとみなされます。

従って、弁済とみなされることで、連帯債権は消滅することになります。

 

3 連帯債務の絶対的効力の縮小
(1)相対的効力の原則(441条)

連帯債務については相対的効力が原則とされています。

相対的効力とは、連帯債務者の1人に生じた事由は、他の連帯債務者に効力を生じないことをいいます。

但し、弁済、それに準ずる相殺、更改、混同については、債務者は責任を果たしていますから、絶対的効力により全ての債務が消滅することとなります。

相対的効力の原則から、債権者による債務者の1人への履行の請求(例えば、時効更新・完成猶予)も相対的効力しかなく、他の債務者に影響を及ぼしません。

但し、債権者Aと連帯債務者Bとの間で、「連帯債務者Cとの事由がBにも効力を及ぼす」という趣旨の意思を特別に表示したときには、その意思に従います。

(3)絶対的効力を生ずる事由

以下の場合は例外的に、債務者の1人に生じた事由が他の債務者に影響を及ぼす(絶対的効力)事由です。

① 相殺(439条)

相殺を援用したときには、弁済と同様に絶対的効力を生じます。

また、例えば、連帯債務者Bが債権者Aに対する反対債権による相殺を援用しないときには、連帯債務者CはBの負担部分の限度で、債務の履行を拒絶することができます。

これは、負担部分の限度でのみ相殺の援用を認めていた旧法を改正したものです。

② 債務の免除(旧法の条文削除)
負担部分の限度で絶対的効力を生ずるとしていた旧法の規定を削除しました。

③ 時効の完成(439条)
債権者が債務者に請求をした場合に、時効の更新・完成猶予が相対的な効力しか生じないことから、時効完成についても債務者ごとに消滅の効果を生じるとして、相対効の原則を適用することとしました。

 

4 連帯債務の求償権に関する見直し

(1)求償権の要件と額(442条1項)

債権者が、債務者に求償する要件として、弁済等、共同の免責を得た額が、求償を求める連帯債務者の負担部分を超えていることを要しません。

これは、旧法下での実務の取り扱いを明文化したものです。

同様に、求償額の上限が共同の免責を得た額に止まることを明文化しました。

(2)事前通知と求償権(443条1項)

連帯債務者Aが他の連帯債務者Bがいることを知りながら、事前通知をしないで弁済等をしたときには、Bは、債権者に対抗できる事由を、Aに対しても対抗できます。

(3)事後通知と求償権(443条2項)

連帯債務者Aが他の連帯債務者Bがいることを知りながら、債権者に「弁済した」などの事後の通知を怠った結果、Bがその後に弁済等をしたときには、Bの弁済等の方を有効とみなします。

この場合、債権者は二重に弁済を受けていますから、Aは債権者に弁済してしまった分を返すように求めることはできます(不当利得返還請求)。

(4)無資力者の負担部分の分担(444条)

連帯債務者に無資力者がいて負担部分全額の求償ができないときには、負担部分割合(負担部分がないときには頭数割合)で、各債務者がリスクを負担します。

もっとも、求償をする者が無資力なのに求償を放置するなど、回収不能につき過失があるときには、他の債務者に無資力者から回収できないリスクの負担を求めることはできません。

債権者が連帯の免除をしても、無資力者からの回収ができない場合の負担までは引き受けることはありません(旧法445条を削除)。

(5)免除・時効の完成と求償権(445条)

連帯債務者Aにつき債務免除・消滅時効完成しても、債権者は連帯債務者Bに対して債権全額の請求をすることができます。

そこで、全額支払ったBは、Aに負担部分全額の請求ができる。

なお、Aは債権者に求償相当額の請求はできなません。なぜなら、連帯債務の担保機能を強化するために当事者が連帯債務としたことを重視する必要があるからです。

 

5 不可分債権・不可分債務の改正

(1)不可分債権の見直し(428条)

不可分債権についても連帯債権の規定を準用します。但し、不可分債権の場合には、更改・免除・混同の場合にも相対的効力しか生じません(428条)。

更改・免除の場合には、不可分債権者は分与されるべき利益(負担部分に対応)を債務者に償還します(429条)。

(2)不可分債務の見直し

不可分債務についても、連帯債権の規定を準用します。但し、不可分債務の場合には、混同の場合にも相対的効力しか生じません(430条)。

 

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詐害行為取消権について

民法改正(令和2年4月1日施行)

詐害行為取消権について、判例の実務や学説の通説に合わせてを明文化するとともに、新たな規定を追加しています。

 

1 詐害行為取消の基本原則

(1)取消の対象となる行為の範囲を明確化(424条)

旧法では「法律行為」とあったのを、「行為」と改正しました。

この趣旨は、裁判実務では従前から取消の対象は法律行為に限られず、債務の弁済なども含めていたので、これを明確にしたものです。

(2)被保全債権の生じた時期(424条3項)

詐害行為の取り消しにより保全される債権(被保全債権)が詐害行為よりも「前の原因に基づいて生じたもの」でなければならないことを明確に定めました。

(3)被保全債権の種類の限定(424条4項)

強制執行をしても実現できないような債権を保全するために、詐害行為を取り消すことを禁止しています。

これは、詐害行為取消権は、取消により債務者の財産を取り戻して強制執行をするために作られた手続だからです。

 

2 行為類型ごとの要件の類型化~破産法における否認権と足並みを合わせたもの

(1)相当の対価を得てした財産処分行為(424条の2)

このような財産処分行為を取り消すためには以下の①~③の全てに該当することが必要です。

① 換価等、財産の種類の変更が、隠匿等の処分のおそれを現に生じさせるものであること

② 債務者が、行為当時、隠匿等の処分をする意思を有していたこと


③ 受益者の悪意

 

(2)既存の債権への担保供与・債務消滅行為(424条の3)

既にある債権について、債務者が債権者のために抵当権を設定するなどの行為について、詐害行為取消権を行使するには、以下の①、②の両方に該当することが必要です。

① 支払不能時に行われたものか、債務者が義務を負わないもの又はその時期が債務者の義務に属さない行為であって支払不能になる前30日以内に行われたものであること

② 債務者と受益者の通謀と、他の債権者を害する意図があること

 

なお、新規の融資と同時に行われる抵当権設定などの担保供与行為は本条の対象とはなりません。

 

(3)対価的均衡を欠く債務消滅行為(424条の4)

この条項は、債権額に比して給付が過大である代物弁済を念頭に規定されています。

対価的な均衡がとれている部分は424条の3のルールに従い,それを超える部分については424条に従って取消をすることも可能です。

不動産のように財産が不可分(分割が現実的にできない)の場合には、価額の償還を求めることとされています(424条の6・1項)。

 

3 転得者に対する行使(424条の5)

(1)転得者に対する詐害行為取消権の行使

この場合には、詐害行為取消権の行使を以下の要件に該当する場合に限定しています。

① 受益者への詐害行為取消ができること(受益者の悪意が必要)

② 受益者からの転得者→転得時の悪意

 

(2)転得者からの転得者の場合

全て転得者が、転得時に債権者を害することにつき悪意であること

 

(3)悪意者が善意の者を形だけ介在させたとき(いわゆる「わら人形」の利用)は、解釈上、前記の「わら人形」を悪意と評価することができます。

 

4 行使方法(424条の6~425条)

(1)債務者への返還請求権等の明確化(424条の6)

取消のみならず、当該財産(返還困難時は価額)の債務者への返還請求もできます。

債権者は、受益者のみならず転得者に対しても、債務者への返還請求をすることができるとの規定を新設しました。

 

(2)行使の範囲の明確化(424条の8)

取消対象となる行為の目的が可分のときには、債権者の債権額の限度においてのみ取消ができます。

価額償還請求をするときにも同じように、債権額の限度でのみ取消をすることができます。

 

(3)行使の範囲の明確化(424条の9)

取消により金銭の支払い又は動産の引渡しを求めるとき(価額償還請求場合も含みます)には、債権者は自己に直接支払又は引渡しを求めることができます。

このとき、受益者、転得者は債務者への支払又は引渡しを要しません。

これも、これまでの裁判実務を条文として明文化したものです。

 

(4)認容判決の効力の拡張等

・詐害行為取消の裁判において被告となる者(被告適格を有する者)は、受益者又は転得者となります(424条の7・1項)。

・確定判決の効力は、債務者及び総債権者に及びます(425条)。

・裁判を起こしたときには、債権者は債務者に対する訴訟告知をしなければなりません(424条の7・2項)。その趣旨は、判決の効力が及ぶ債務者に審理参加の機会を与えるためです。

・これは、アドバイスですが、取消債権者は、債務者の受益者・転得者に対する財産の引渡し請求権を仮差押した方が良いです。なぜなら、①債務者による再度の詐害行為を防止する必要がありますし、②他の債権者による仮差押によってせっかくの財産からの回収で劣後してしまうリスクがあるからです。

 

5 受益者・転得者の反対給付の返還請求権を明文化

・財産処分行為が取り消されたときは、受益者は債務者に反対給付の返還(現物返還)を請求できます。この現物返還が困難なときには価額償還請求をしていくことになります(425条の2)。

例えば、債務者を売主とする自動車の売買契約が取り消されたときは、受益者は既に支払った代金の返還請求をすることができます。

・転得者に対して取消がなされた場合は、転得者の反対給付(代物弁済を受けた債権者の場合には消滅した債権)の価額を限度として、転得者は受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権(価額償還請求権)を行使することができます(425条の4)。

・債権者が自己への引渡しまたは支払を受益者に求めるときに、受益者は債務者に対する同時履行の抗弁権を、債権者に対して行使することはできません。

 

6 債務消滅行為の取消による債権の復活

(1)受益者への請求のとき(425条の3)

債務の弁済などの債務消滅行為が取り消され、受益者が受けた給付(価額)を債務者に返還したときには、受益者の債務者に対する債権は、原状に復します。

例えば、100万円の債権に対して1,000万円の土地を代物弁済した詐害行為を取り消したときは、受益者が土地を返還したときには、100万円の債権が復活することになります。

 

(2)転得者への請求のとき(425条の4)

債務消滅行為について転得者がいる場合についてにも規定を設けました

例えば、受益者の100万円の債権に対して、債務者が1,000万円の土地を代物弁済されたとします。

転得者が当該土地を取得するためにした反対給付の価額(代物弁済の場合には消滅した債権額)を限度として、転得者は受益者の債務者に対する復活債権を行使することができます。

 

7 取消権行使の期間制限(426条)

2年の期間制限の起算点を、詐害行為を知った時からとして、受益者の悪意の認識(例えば債権者を害する意図など)は不要なことを明確化しました。

従前は、取消権行使について20年の期間制限が定められていましたが、これを短縮化して10年と改正しました。

この期間制限は、消滅時効ではなく出訴期間であることを明示しました。その結果、通常の消滅時効のような更新・完成猶予の規定は適用されません。

 

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債権者代位権について

民法改正(令和2年4月1日施行)

債権者代位権について、判例の実務を明文化するとともに、新たな規定を追加しています。

 

 差押禁止債権の代位行使の禁止の明確化(423条1項但書)

債権者が、債務者の有する差押禁止債権を代位して行使することを禁止する旨明文化しています。

差押禁止債権は債務者の責任財産に含まれないため、これまでも実務では代位行使は禁じられていましたが、規定がなかったため条文に明確に規定することとしたものです。

 

2 強制執行できない被保全債権による代位の禁止を明文化(423条3項)

強制執行ができない債権を保全するために債権者代位をすることはできません。

なぜなら、被保全債権が強制執行できないものである場合には、債権代位行使によって、強制執行の対象となる責任財産を保全するという関係自体が存在しないためです。

 

3 裁判上の代位制度の廃止(旧423条2項)

裁判上の代位のいう制度が旧法ではありましたが、これが廃止されたため、これに該当する条文が削除されました。

裁判により責任財産を保全する方法としては、民事保全制度が定められていて、実務上も民事保全によることがほとんどです。

そこで、必要のない制度を廃止して、責任財産保全の制度を整理したものです。

 

4 被代位権利が可分のときの代位範囲の明文化(423条の2)

債権者代位の対象となる債権が金銭債権のように分割可能なときには、債権者は自己の債権の範囲内でのみ代位行使をすることができます。

例えば、500万円の債権を持っている債権者が、債務者の700万円の債権を代位しようとするときには、500万円までのみ代位ができ、残りの200万円については代位ができないということです。

 

5 相手方への直接の支払請求等の明文化(423条の3)

代位の対象となる権利が金銭債権又は動産引き渡しの場合には、消失の危険もあることから、債権者は自己に直接支払ったり、引き渡したりするよう求めることができます。

これも、実務上は従前から行われていた方法を条文に明確に定めたものです。

 

6 相手方の抗弁の取り扱いの明文化(423条の4)

代位の対象となる債権の債務者、つまり債権者が代位するときの相手方は、債務者に対する抗弁をもって代位債権者にも対抗することができます。

債権者は、あくまで債務者が持っている権利の範囲で代位行使ができるに過ぎないので、債務者に対する抗弁は同じように債権者にも言えるのです。

 

7 債権者の代位後も債務者の財産管理権を確保(423条の5)

債権者が代位をした後であっても、債務者は自らが有する権利について取り立てや処分をすることができます。

また、債務者に対して相手方が履行をした場合にも、その履行をもって相手方は債権者に対抗することができます。

債権者は、責任財産保全のために債務者の権利を代位行使する立場であって、債務者の財産管理までできる立場ではないので、債務者の財産管理に対する債権者の過剰介入を阻止することとしたものです。

 

8 債務者への訴訟告知を義務化(423条の6)

債権者代位による訴訟を提起した場合には、債権者は遅滞なく債務者に訴訟告知(訴訟を行っていることを知らせて参加の機会を与えること)をする義務があります。

債権者代位訴訟の判決の効力は債務者に及ぶため(旧法時代からの通説)、債務者に裁判の審理に参加する機会を与えることとしたものです。

 

9 登記・登録請求権の代位行使(転用事例)を明文化(423条の7)

債権者代位は、本来は、強制執行の準備のために債務者の責任財産を保全しようとする制度です。

もっとも、実務上の必要性から、登記・登録が対抗要件となっている財産の譲受人は、譲渡人が第三者に対して有する登記・登録請求権を代位行使できます。

例えば、A→B→Cと土地が転売されたとします。

このとき、CはBに対して所有者としての登記名義を移転するよう請求する権利があります(所有権移転登記請求権)。

ただ、登記名義がまだAにある場合には、Bが動かないと困るので、CはBのAに対する所有権移転登記請求権を代位行使してB名義にした上で、自分の請求権を実行することとなります。

これは旧法下でも実務上認められていたものを、条文として明文化したものです。

 

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経過措置規定~定型約款についての特則

民法改正(令和2年4月1日施行)

定型約款について、新法の適用が拡張される場合とその例外について定めています。

 

1 新法の適用範囲の拡張

施行日前に締結された定型取引についても、原則として新法が適用されます。

但し、旧法によって既に生じた効力は妨げられません。 法律によって生じた効果を維持して、法的な安定性を確保したものです。

 

2 拡張の例外

施行日の前日までに当事者の一方が書面または電磁的記録で反対の意思表示をしたときは、引き続き旧法が適用されます。

但し、新法の適用を望まない当事者が、解除・解約により契約を終了させることができた場合は、上記の反対の意思表示はできません。

ここでいう解除・解約は法定解除権・任意解除権のみならず、相手方から解除の申し入れがされている場合、契約からの離脱など終了事由を広く含みます。

反対の意思表示をする時点で解除権等が付与されていれば足ります。

 

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経過措置規定~消滅時効についての特則

民法改正(令和2年4月1日施行)

消滅時効の更新(中断)・完成猶予(停止)や消滅時効期間について特別に規定を設けています。

 

1 時効の中断・停止に関する経過措置

更新(中断)・完成猶予(停止)の事由が生じた時点が施行日より前か後かで旧法・新法を適用するか決めます。

例えば、施行日前に生じた債権であっても、施行日後に更新(中断)・完成猶予新(停止)の事由が生じたときには新法を適用することになります。

なぜなら、更新(中断)・完成猶予(停止)については、新旧二つの制度が併存すると混乱するため、できるだけ新制度を広く適用してそれを防ぐ必要があるからです。

 

2 消滅時効期間に関する経過措置

施行日前に債権が生じた場合には旧法を適用し、施行日以後に債権が生じた場合には新法を適用します。

このようにすることで、債権者、債務者の予測可能性を保護したものです。

契約等の法律行為によって債権が生じた場合には、「その原因である法律行為」がされた時点を基準時とします。

その結果、例えば、以下の場合でも契約時を基準とすることになり、どちらかというと旧法が適用されやすくなります。

① 契約に基づいて停止条件付債権が発生したとき

 → 条件成就時でなく契約時を基準。

② 賃貸借契約に基づく必要費償還請求権

 → 賃貸借契約締結時を基準。

③ 契約不適合を理由とする損賠請求権

 → 売買契約締結時を基準。

④ 使用者の安全配慮義務違反の損賠請求権

 → 雇用契約締結時を基準。

 

3 不法行為による損害賠償請求権の経過措置

施行日前に債権が生じた場合には旧法を適用、施行日以後に債権が生じた場合には新法を適用します。そのようにすれば、当事者の予測可能性を保護することができるからです。

20年の権利消滅期間(除斥期間)は、施行日に除斥期間が経過していなければ、新法によりその期間は時効期間と扱われます。

人の生命・身体の侵害行為による損害賠償請求権の消滅時効期間を5年とする規定は、施行日に消滅していない施行日前発生の債権にも適用されます。

 

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経過措置規定~債権譲渡についての特則

民法改正(令和2年4月1日施行)

債権譲渡についての新法適用基準時について定めています。

 

1 適用基準時

債権譲渡に関する規定全体について、債権譲渡の原因である法律行為がされた時点を基準として、新法旧法の適用を決めます。

その結果、譲渡制限特約が旧法時にされていても、譲渡が施行日以後であれば新法が適用されることになります。

なぜなら、新法において債務者の利益は旧法と同等以上に保護されるため、資金調達の円滑化のために新法を適用すべきだからです。

 

2 相殺制限特約に関する規定

相殺制限特約が付された時点を基準として判断します。

なぜなら、債務者の相殺の予測・期待を保護する必要があるからです。

 

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経過措置規定~賃貸借契約に関する特則

民法改正(令和2年4月1日施行)

施行日前に締結した賃貸借契約が、施行日以降に更新された場合に、新法、旧法のいずれを適用するかについて定めています。

 

1 当事者間の合意による更新の場合

更新時が施行日以降であれば新法が適用されます。

契約により「いずれかが異議を述べない限り自動更新される」との条項がある場合も合意による更新と扱って、更新時が施行日以降であれば新法を適用します。

ここではは、「終了させない」という不作為を更新の合意と評価して、新法を的ようしています。

 

2 法律の規定による更新の場合

(1)期間満了後の賃借人の使用継続による推定(民法619条)

新法の適用は当事者の合理的意思を根拠とするため、使用継続を更新の意思と見て、更新時を基準とします。

この点は、雇用契約の場合にも同趣旨の規定が定められています。

 

(2)当事者の意思に基づかない法定更新(借地借家法の法定更新)

借地借家法に定められている法律の規定によって当然に更新される(法定更新)場合には、更新後も引き続き旧法を適用します。


例えば、①更新拒絶の通知がないことから更新された場合、②更新拒絶をしたが正当事由がなく法定更新された場合があります。

なお、労働契約法19条も同趣旨の規定が定められています。

 

3 保証契約について

保証契約の締結時を基準とします。

賃貸借契約が施行後に合意更新されても、保証契約について新たな合意がなければ、保証契約には旧法が適用されます。

 

4 賃貸借契約の存続期間(20年→50年に伸長)

施行日以降に更新がされた場合には、合意更新・法定更新を問わず新法が適用されます。

そのようにしても当事者の予測を害することがないため、新しい改正法を適用するものです。

 

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経過措置規定~施行日前であっても新法が適用されるもの

民法改正(令和2年4月1日施行)

新法の施行日よりも前に結ばれた契約であっても、新法が適用される場合について定めています。

 

1 時効の中断・停止(時効の更新・完成猶予)の規定

時効の中断(更新)・停止(完成猶予)の原因となる事由の発生時点を基準時とします。

 

2 法定利率の規定

利息が発生した時点、遅滞が生じた時点を基準とします。

例えば、旧法時に利息が発生すれば、新法施行後も5%が適用されることになります。

逆に、旧法時に発生した債務でも利息発生や遅滞が令和2年4月1日以降であれば、新法を基準とした利率が適用されます。

中間利息の控除(新法417条の2・同722条1項)は、中間利息の控除の対象となる損害賠償請求権が生じた時点を新法適用の基準時とします。

 

3 弁済の充当に関する規定

債務発生時ではなく、弁済時を基準とします。

相殺による充当の場合にも、弁済の場合と合わせて、相殺の意思表示の時点を基準とします。

 

4 定型約款に関する経過措置

施行日前に締結された定型取引に係る契約につても新法を適用します。但し、旧法の規定によって生じた効力は妨げられません。

この例外として、施行日の前日前に、契約当事者の一方が反対の意思表示をした場合には旧法が適用されます。

 

5 賃借人による妨害停止等の請求をする場合

賃貸借契約が施行日以前にされた場合でも、施行日以降に第三者から妨害等を受けて権利行使する場合には新法を適用します。

 

6 不法行為による損害賠償請求の場合

施行日に20年の除斥期間が経過していなければ新法を適用して、その20年については消滅時効期間として取り扱います。

消滅時効として扱えば、更新・完成猶予が認められて、被害者の損害賠償請求権が維持しやすくなるため、被害者保護のために定められました。

同様に、人の生命・身体の侵害による不法行為の主観的起算点からの消滅時効についても、新法の施行日に3年の時効が完成していなければ、より期間が長い新法を適用して5年とします。

 

7 代理行為に関する規定

改正法の施行日前に代理権の発生原因が生じた場合には、旧法を適用します。

 

8 債権者代位・詐害行為取消権に関する規定

被代位債権の発生時を基準とします。

仮に、代位行為が新法施行後だったとしても、被代位債権の発生時が令和2年3月31日以前だった場合には、旧法を適用します。

詐害行為が行われた時点を基準とします。これは、取消権者や転得者が複数存在する場合にも、一律に詐害行為時を基準として、規律を明確にしたものです。

 

9 差押えを受けた債権を受動債権とする相殺の場合

自働債権が生じた原因が施行日前であれば旧法を、施行日後であれば新法を適用します。

これによって、相殺をしようとする者が適用法令を予測して行動することができるようになるからです。

 

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経過措置規定~原則

民法改正(令和2年4月1日施行)

改正前の旧法と改正法とのどちらが適用されるか、についての原則を定めました。

 

経過措定の原則

・今回の改正法は、2020年(令和2年)4月1日から施行されます。

・法令の適用の結果について、当事者の予測が形成される一定の事象の発生を基準として、その発生が施行前であれば新法は適用しません。

・その結果、施行日以後に債権・債務が発生した場合でも、その原因が施行日前に生じていたときには旧法が適用されることになります(付則10条1項・17条1項等)。

・但し、各規定の性質上、この経過措置規定の原則が修正される場合があることには注意が必要です。修正される場合については、別の項目で説明しています。

 

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法定利率などの変更

民法改正(令和2年4月1日施行)

法定利率や中間利息控除の率を社会経済の実態に合わせて変更しました。

 

1 法定利率(404条2項)

基本的な利率を3%と規定して上で、法務省令による緩やかな「緩やかな変動制」を採用しました。

変動制とはいえ、一旦、法定利率が定まった後に変動があっても、その変動は当事者には影響を与えません。

また、旧商法では年利6%と定められていた商事法定利率を廃止して、民法の変動利率に統一することにしました。

 

2 金銭債務の損害賠償(419条)

約定利率がないときには、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点を基準とした法定利率で算定することになります。

 

3 中間利息の控除(417条の2・722条1項)

中間利息の控除も改正後の法定利率によることを規定しました。

これは、特に交通事故の場合に適用が多く、その基準時は損害賠償請求権が生じた時点(交通事故が発生した時点)となります。

従って、交通事故が基準日の前に発生したものか否かは注意する必要があります。

 

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