売主の担保責任の規定を大きく変更

民法改正(令和2年4月1日施行)

売主の担保責任に関する規定が、改正前の法的実務と異なる形で大きく改正されました。

取引の現実の実態に合わせたものです。

 

1 売主の担保責任~「目的物」の契約不適合責任(562条~564条)

(1)制度趣旨~契約責任説を基本

売買の対象となる物が不動産のような特定物の場合でも、新車を購入する場合のように不特定物の場合でも、この規定が適用されます(旧法は特定物のみに適用)。

売主は、特定物・不特定物を問わず、種類・品質・数量に関して売買契約の内容に適合した目的物を引き渡す債務を負うことになります。

そして、引き渡された目的物が契約の内容に適合しない場合には、売主の無過失責任を認めて買主を保護することとしました。

 

(2)追完請求(562条)

買主は、売主に対して、目的物の修補、代わりの物の引き渡し、不足する分の引渡しなど、履行の追完請求をすることができます。

売主に故意も過失もない場合であっても、売主は責任を負います(無過失責任)。

ここでいう「追完」の内容については、第一次的には買主が選択することができます。

もっとも、買主に不相当な負担を課さないときには、売主は、買主が選択した方法と異なる追完をすることもできます。

例えば、買主から代わりの物の引き渡しを請求した場合でも、修補は容易で費用も安く、買主にも特段の不利益がないと認められるときには、買主の選択した追完も有効です。

契約不適合責任は買主を保護するためなので、買主に故意・過失(帰責すべき事由)がある場合には、保護する必要はなく、買主からの追完請求は認められません。

 

(3)代金減額請求(563条)

買主は、相当の期間を定めて履行の追完の催告をして、追完がないときには不適合の程度に応じて代金減額請求をすることができます。

ここでも、売主の責任は無過失責任であることは、追完請求の場合と同じです。

そして、例外的に、事前の追完の催告が不要な場合を以下のとおり規定しました。

① 追完が不能なとき

② 売主が追完拒絶の意思を明確に表示したとき


③ 特定の日時又は一定の期間内に履行しなければ契約目的達成不可の場合にその時期を経過したとき


④ 上記①~③以外で買主が催告をしても追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき

売主が、この代金減額請求を買主に対して行った場合には、別途、損害賠償請求をすることはできません。

なぜなら、売主の代金減額請求の結果、売買代金と売買の目的物の対価としての均衡がとれることになり、契約の内容に適合したものが引き渡されたとみなされるからです。

また、買主を保護する規定である以上、買主に故意・過失(帰責事由)があるときは代金減額請求をすることができません。

 

(4)損害賠償請求・解除(564条)

損害賠償請求や解除をする場合には、債務不履行の一般的な規定(415条)、解除の一般的な規定(541条・542条)が適用されます。

従って、損害賠償の範囲は、通常の債務不履行と同じく履行利益まで及びます。

また、解除については、原則として事前に追完の催告をしておくことが必要です。

また、契約不適合の程度が軽微な場合にまで解除をみとめると、売主の負担が大きいため、その場合には追完請求や代金減額請求によるべきこととなり、解除をすることはできません(541条但書)。

買主が契約不適合を知らなかったこと(善意)や、過失がなかったことは要件とはなっていません。

そのため、裁判では、それらの事情は「どのような品質の目的物を引き渡すことを内容とする契約だったか」の判断要素として評価されることになります。  

 

2 売主の担保責任~「権利」の契約不適合(565条)

売買の目的が権利だった場合にも、売買の目的物に契約不適合があった場合の担保責任に関する規定が準用されます。

権利の契約内容不適合とは、例えば以下の場合を言います。

① 債権の売買において、債権にあるはずの担保権がなかった場合

② 売買の目的物に制限物権・担保物権・賃借権が設定されていた場合

③ 売買の目的物に存在するはずの利用権が存しない場合

例えば、売買目的の不動産に抵当権が設定されていても、それを前提に売買価格が安く設定されていた場合には、軽微な場合として、買主は直ちに解除等をすることはできません。

 

3 買主の権利の期間制限(566条)

契約目的不適合責任を追及できるのは、目的物の引渡しがあった場合に、買主が契約不適合を知ってから1年以内と定められています。

この期間制限があるのは、「引き渡された目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合」=目的物に物理的欠陥がある場合に限られます。

例えば、数量不足や権利の瑕疵などの場合には、この期間制限の規定は適用されず、通常の債権の消滅時効の原則によることとなります。

買主は、目的物が契約の内容に適合しないことを知った時から1年以内にその旨を売主に通知しなければ、担保責任の追及をすることができません。

もっとも、売主が引渡しのときに、「目的物が契約の内容に適合しないことを知り又は重大な過失により知らなかったとき」には、この期間制限は適用されません。

 

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