債権譲渡について

民法改正(令和2年4月1日施行)

債権譲渡について、これまでの裁判実務を条文にするとともに、改正をしました。

 

1 譲渡制限特約が付された債権の譲渡

(1)譲渡の原則有効性(466条2項)

譲渡制限が付されている債権についても、原則として譲渡は有効であることを明記しました。

債権の流通性を重視したものです。

 

(2)悪意又は重過失の譲受人に対する履行拒絶(同条3項)

債務者は、債権の譲受人が「債権に譲渡制限が付されていること」を知っている場合(悪意)又はわずかな注意を払えば知ることができた場合(重過失)には、債務の履行を拒絶することができます。

更に、この場合には、債務者は、譲渡人(元の債権者)に対すして債務を弁済して債務が消滅していたなどの債務消滅事由を、債権の譲受人に対しても主張(対抗)することができます。

但し、この譲受人の「悪意又は重過失」は債務者の方で証明しなければなりません。

 

(3)譲受人保護のための措置(同条4項)

譲渡制限について譲受人が悪意又は重過失だとしても、債務者が債務の履行を免れるわけではありません。

少なくとも、譲渡人(元の債権者)に対しては履行する義務があります。

それにも関わらず、悪意又は重過失を主張して債務者が履行しない場合には、債権の譲受人は、相当期間を定めて譲渡人への履行を催告し、それでも履行がないときは譲受人への履行を請求することができます。

これは、譲渡制限を知りながら(又は重過失で)債権を担保にとった譲渡担保権者などを念頭にして規定したものです。

 

(4)新たな供託原因を創設(466条の2)

譲渡制限が付された金銭債権が譲渡されたとき、債務者が譲受人の悪意又は重過失について不明な場合には、譲渡人・譲受人のどちらに弁済をしたら良いか困ることがあります。

そこで、改正法は新たな供託原因を創設し、このような場合には、債務者は当然に法務局に供託をすることができることとしました。

この供託をすることで、債務者は自らの責任を免れることができます。

供託後に法務局に供託された金銭を返還請求(還付請求)できるのは、債権の譲受人のみです。

原則として債権譲渡が有効である以上、譲渡人は債権を持っていないため、還付請求をすることができません。

 

(5)譲渡人が破産した場合の供託制度の創設(466条の3)

譲渡人が破産した場合には、債権譲渡の対抗要件を備えた譲受人は(悪意又は重過失であっても)債務者に供託を請求することができます(466条の3)。

この請求後に債務者が譲渡人(破産した者)に弁済をしたとしても、譲受人には対抗することができず(468条2項・同条1項)、譲渡人は債務者に対して請求をすることができます。

この譲受人の請求に基づく供託についても、譲受人のみが還付請求でき(466条の3後段→466条の2・3項)、譲渡人は還付請求できません。

 

(6)制限が付された債権の差押えの効力(466条の4)

債権に譲渡制限特約が付されていても、譲受人の債権者が債権を差し押さえてきたときには、債務者は譲渡制限を(主張)対抗することはできません。

但し,譲受人が悪意又は有過失のときには、債務者は譲受人に対する履行拒絶などを、差押え債権者にも対抗することができます。

なぜならい、 差押え債権者は譲受人の権利を差し押さえているに過ぎないので、譲受人以上の権利を与える必要はないからです。

 

(7)預貯金債権の特則(466条の5)

預貯金債権については、旧法と同様に、当事者間での譲渡は無効とされ、譲渡制限特約を悪意又は重過失の譲受人に対抗できるとしています(1項)。

預貯金債権は通常は譲渡制限特約が付されており、預貯金の名義を金融機関の承諾を得ずに勝手に変えられないことは一般にそれは知られています。

そのため、譲受人は通常は悪意又は重過失があるとされて、金融機関は譲受人に対して履行拒絶等をすることができます。

もっとも、預貯金債権を差押えた債権者が、譲渡制限が付されていることにつき悪意又は重過失でも、強制執行は妨げられません(2項)。

そうでないと、預貯金債権の一切を差し押さえられなくなってしまい、不都合だからです。

 

2 将来債権の譲渡(466条の6)

(1)趣旨

将来債権とは、将来発生することが予定されている債権です。

例えば、A社とB社が取引をしていた場合、来月以降の取引から発生することが見込まれている売掛金などが将来債権となります。

このような債権を譲渡したり担保にしたりして資金融通することができれば、中小企業がより用意に資金調達することができるため、このような規定を設けたものです。

 

(2)譲渡と対抗要件(1項・2項)

まず、将来債権の譲渡が可能であること、既に発生している債権を譲渡する場合と同じ方法で、債権譲渡について債務者や第三者に対する対抗要件を譲受人が取得(具備)できることを明文化しました。

 

(3)譲渡制限特約との関係(3項)

債務者は、債権者との間で譲渡制限特約に合意すれば、債権を譲渡されないと信頼しています。

そこで、その特約後に債権譲渡の対抗要件(譲渡人による債権譲渡の通知など)が具備された場合には、譲受人を悪意とみなします。

債権が譲渡されないと信じた 債務者の信頼を保護する必要があるからです。

これに対して、債務者に対する対抗要件が具備した後に、譲渡制限特約が付されたとしても、この場合には債務者を保護する必要がありません。

そこで、この場合には債権の流通性を優先して、債務者は譲受人に譲渡制限があることを主張(対抗)することができません。

 

3 異議をとどめない承諾の制度を廃止(468条)

旧法は、異議をとどめない承諾があれば、債務者は譲渡人に主張(対抗)できた事由(抗弁)を譲受人に主張(対抗)できませんでした。

しかし、債務者が異議を止めない承諾をしたとしても、抗弁まで放棄するとは限りません。

そこで、新法では債務者の意思表示を重視して、単なる異議をとどめない承諾だけでなく、債務者が抗弁を放棄する旨の意思表示をして初めて、債務者は譲渡人への抗弁を譲受人に主張できなくなる(抗弁の切断)こととしました。

 

4 債権譲渡と相殺(469条)

(1)対抗要件具備前に債務者が債権を取得した場合(1項)

譲渡人からの通知などの対抗要件が具備される前に、債務者が反対債権を取得したときには、債務者の相殺の期待を保護することが合理的です。

そこで、債務者は自働債権・受働債権の弁済期の先後を問わず、相殺をすることができます。

 

(2)対抗要件具備後に債務者が債権を取得した場合(2項)

債権は譲渡人に移転しているので、債権者と債務者が債権を互いに持ち合う関係にありません。

そのため、相殺の要件(相殺適状)を充たさず、原則として債務者からの相殺は認めれません。

但し、以下の場合は例外的に相殺をすることができます。

① 債務者が取得した債権が対抗要件を具備した時よりも前の原因に基づいて生じたとき

【具体例1】従前の賃貸借契約に基づく賃料債権が、対抗要件を具備した後に発生した場合には、賃料債権を自働債権とする相殺が認められます。

【具体例2】従前の委託を受けた保証に基づいて、対抗要件を具備した後に事後求償権が発生した場合には、事後求償権を自働債権とする相殺が認められます。

② 対抗要件具備後の原因に基づいて生じたものであっても、その債権が譲渡された債権の発生原因である契約に基づいて生じたとき

【例】将来債権(将来の売掛金)が譲渡された場合で、対抗要件を具備した後の契約(売買契約)に基づいて売掛金債権を債務者が取得した場合には、この売掛金債権を自働債権とする相殺が認められます。

 

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