民法改正(令和2年4月1日施行)
保証契約の基礎に関する規定を整理、修正しました。
1 保証契約締結後の主債務の変更(448条2項)
債権者と保証人との間で保証契約を締結した後に、主債務(債権者と主債務者との債務)の目的・態様が加重されても、保証人が同意しない限り、保証人の責任は加重されません。
保証人の知らないところで契約当時よりも責任が重くなっていたのでは、予測できない損害を保証人が被ってしまうからです。
2 保証人の抗弁権(457条2項)
保証人は、主債務者が債権者に対して持っている抗弁を、債権者に対して対抗することができます(457条2項)。
例えば、債権者Aから主債務者Bが土地を購入して、AのBに対する売買代金債権をCが保証したとします。
この場合、まだ土地の登記名義がAのままだった場合、BはAに対して「土地の所有権移転登記をするまでは代金を支払わない」という抗弁(同時履行の抗弁権)をもっています。
この場合、CはBの持つ同時履行の抗弁権を使って、Aからの保証債権の履行請求を拒むことができることになります。
3 主債務者が相殺権・取消権・解除権を持つ場合(457条3項)
主債務者が債権者に対して、相殺権・取消権・解除権を有するときには、保証人は主債務者が債務を免れうる限度で履行を拒絶することができます(457条3項)。
このケースで、保証人が主債務者の相殺権・取消権・解除権を行使できるとすると主債務が消滅することとなります。
もっとも、自分の権利関係は自分で決めるという私的自治の原則からは、他者の権利関係への介入は最小限にすべきです。
そこで、保証人は債権者からの請求を拒めれば十分なので、主債務者の持つ権利を使うところまでは認めずに、履行拒絶権だけを認めたものです。
4 連帯保証人に生じた事由の主債務者への影響(458条)
実務上の保証債務のほとんどは連帯保証債務です。
この連帯保証債務において、連帯保証人に生じた事由が主債務者に影響を及ぼすか(絶対的効力)、及ぼさないか(相対的効力)の基準については、他の項木で説明した連帯債務の規定を準用することとしました。
その結果、以下のような結論となります。
① 債権者が保証人に請求をした場合の効力(時効の更新・完成猶予など)
保証人に対する請求は相対的効力しか持たないので、主債務者には影響を及ぼしません。
そのため、例えば、時効の進行を止めるためには、保証人とは別に、主債務者にも請求をしておかなければなりません。
② 債権者と保証人との間で生じた更改・相殺・混同の効力
更改・相殺・混同は弁済と同じ取り扱いがされますので、絶対的効力を生じます。
つまり、主債務も消滅するということになります。
もっとも、債権者と主債務者が「主債務を消滅させない」という趣旨の別段の意思表示をしていた場合にはそれに従うことになります。
5 委託を受けた保証人の求償権の範囲
(1)委託を受けた保証人とは
主債務者から保証人になって欲しいと依頼を受けて保証人になった人を「委託を受けた保証人」といいます。
実務で使われている保証契約の多くは主債務者から依頼されて行われることが多いです。
この「委託を受けた保証人」について、改正法は以下の事項を定めました。
(2)求償権の限度額
保証人が弁済などをして主債務を消滅させた場合には、保証人は主債務者に対して、その償還を請求することができます(保証人の求償権)。
この求償権については、保証人が実際に支出した額と消滅した主債務額とを比較して、少ない方の額の限度で請求していけます(459条1項)。
(3)主債務の期限前の債務消滅行為(459条の2)
主債務について返済期限がまだ来ていないのに、保証人が弁済などの債務消滅行為をした場合には、保証人の求償権が制限されます。
主債務者からすれば「期限前に自分が弁済するつもりだった」と言えるので、その予測を保護するためです。
まず、保証人の主債務者に対する求償権の額は、主債務者が当時、利益を受けた限度に限られます。
次に、弁済等のための費用(実費)、その他の損害賠償(違約金など)も期限後に消滅行為をしても避けられなかったものに限られます。
更に、主債務者が債権者に対して相殺できる債権(反対債権)の発生原因を有していたと主張するときは、保証人は債権者に対して、反対債権の履行請求をすることができます。
そして、保証人が主債務者に対して求償をできるのは、主債務の弁済期が到来した後に限られます。
(4)事前通知と事後通知の必要性(463条1項)
保証人は、弁済などの債務消滅行為をする前に、主債務者にその旨を通知すること(事前通知)が必要です。
これに対して、債務消滅行為の後に通知すること(事後通知)は必要とされていません。
6 委託を受けない保証人の求償権の範囲
(1)委託を受けない保証人とは
主債務者から頼まれていないのに、債権者との間で保証契約をした人を「委託を受けない保証人」といいます。
それほど実務で多くみかけることはありません。
(2)事前通知と事後の通知の必要性
債務消滅行為前の事前通知も、消滅行為後の事後通知も不要とされています
なぜなら、主債務者が依頼をしていないのに保証人になった場合には、主債務者は保証契約の存在すら知らない場合が多いです。
そのため、主債務者を保護する必要があり、委託を受けない保証人の求償権は、いずれにしても通知をしなかった場合と同様の制限を受けるからです。