詐害行為取消権について

民法改正(令和2年4月1日施行)

詐害行為取消権について、判例の実務や学説の通説に合わせてを明文化するとともに、新たな規定を追加しています。

 

1 詐害行為取消の基本原則

(1)取消の対象となる行為の範囲を明確化(424条)

旧法では「法律行為」とあったのを、「行為」と改正しました。

この趣旨は、裁判実務では従前から取消の対象は法律行為に限られず、債務の弁済なども含めていたので、これを明確にしたものです。

(2)被保全債権の生じた時期(424条3項)

詐害行為の取り消しにより保全される債権(被保全債権)が詐害行為よりも「前の原因に基づいて生じたもの」でなければならないことを明確に定めました。

(3)被保全債権の種類の限定(424条4項)

強制執行をしても実現できないような債権を保全するために、詐害行為を取り消すことを禁止しています。

これは、詐害行為取消権は、取消により債務者の財産を取り戻して強制執行をするために作られた手続だからです。

 

2 行為類型ごとの要件の類型化~破産法における否認権と足並みを合わせたもの

(1)相当の対価を得てした財産処分行為(424条の2)

このような財産処分行為を取り消すためには以下の①~③の全てに該当することが必要です。

① 換価等、財産の種類の変更が、隠匿等の処分のおそれを現に生じさせるものであること

② 債務者が、行為当時、隠匿等の処分をする意思を有していたこと


③ 受益者の悪意

 

(2)既存の債権への担保供与・債務消滅行為(424条の3)

既にある債権について、債務者が債権者のために抵当権を設定するなどの行為について、詐害行為取消権を行使するには、以下の①、②の両方に該当することが必要です。

① 支払不能時に行われたものか、債務者が義務を負わないもの又はその時期が債務者の義務に属さない行為であって支払不能になる前30日以内に行われたものであること

② 債務者と受益者の通謀と、他の債権者を害する意図があること

 

なお、新規の融資と同時に行われる抵当権設定などの担保供与行為は本条の対象とはなりません。

 

(3)対価的均衡を欠く債務消滅行為(424条の4)

この条項は、債権額に比して給付が過大である代物弁済を念頭に規定されています。

対価的な均衡がとれている部分は424条の3のルールに従い,それを超える部分については424条に従って取消をすることも可能です。

不動産のように財産が不可分(分割が現実的にできない)の場合には、価額の償還を求めることとされています(424条の6・1項)。

 

3 転得者に対する行使(424条の5)

(1)転得者に対する詐害行為取消権の行使

この場合には、詐害行為取消権の行使を以下の要件に該当する場合に限定しています。

① 受益者への詐害行為取消ができること(受益者の悪意が必要)

② 受益者からの転得者→転得時の悪意

 

(2)転得者からの転得者の場合

全て転得者が、転得時に債権者を害することにつき悪意であること

 

(3)悪意者が善意の者を形だけ介在させたとき(いわゆる「わら人形」の利用)は、解釈上、前記の「わら人形」を悪意と評価することができます。

 

4 行使方法(424条の6~425条)

(1)債務者への返還請求権等の明確化(424条の6)

取消のみならず、当該財産(返還困難時は価額)の債務者への返還請求もできます。

債権者は、受益者のみならず転得者に対しても、債務者への返還請求をすることができるとの規定を新設しました。

 

(2)行使の範囲の明確化(424条の8)

取消対象となる行為の目的が可分のときには、債権者の債権額の限度においてのみ取消ができます。

価額償還請求をするときにも同じように、債権額の限度でのみ取消をすることができます。

 

(3)行使の範囲の明確化(424条の9)

取消により金銭の支払い又は動産の引渡しを求めるとき(価額償還請求場合も含みます)には、債権者は自己に直接支払又は引渡しを求めることができます。

このとき、受益者、転得者は債務者への支払又は引渡しを要しません。

これも、これまでの裁判実務を条文として明文化したものです。

 

(4)認容判決の効力の拡張等

・詐害行為取消の裁判において被告となる者(被告適格を有する者)は、受益者又は転得者となります(424条の7・1項)。

・確定判決の効力は、債務者及び総債権者に及びます(425条)。

・裁判を起こしたときには、債権者は債務者に対する訴訟告知をしなければなりません(424条の7・2項)。その趣旨は、判決の効力が及ぶ債務者に審理参加の機会を与えるためです。

・これは、アドバイスですが、取消債権者は、債務者の受益者・転得者に対する財産の引渡し請求権を仮差押した方が良いです。なぜなら、①債務者による再度の詐害行為を防止する必要がありますし、②他の債権者による仮差押によってせっかくの財産からの回収で劣後してしまうリスクがあるからです。

 

5 受益者・転得者の反対給付の返還請求権を明文化

・財産処分行為が取り消されたときは、受益者は債務者に反対給付の返還(現物返還)を請求できます。この現物返還が困難なときには価額償還請求をしていくことになります(425条の2)。

例えば、債務者を売主とする自動車の売買契約が取り消されたときは、受益者は既に支払った代金の返還請求をすることができます。

・転得者に対して取消がなされた場合は、転得者の反対給付(代物弁済を受けた債権者の場合には消滅した債権)の価額を限度として、転得者は受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権(価額償還請求権)を行使することができます(425条の4)。

・債権者が自己への引渡しまたは支払を受益者に求めるときに、受益者は債務者に対する同時履行の抗弁権を、債権者に対して行使することはできません。

 

6 債務消滅行為の取消による債権の復活

(1)受益者への請求のとき(425条の3)

債務の弁済などの債務消滅行為が取り消され、受益者が受けた給付(価額)を債務者に返還したときには、受益者の債務者に対する債権は、原状に復します。

例えば、100万円の債権に対して1,000万円の土地を代物弁済した詐害行為を取り消したときは、受益者が土地を返還したときには、100万円の債権が復活することになります。

 

(2)転得者への請求のとき(425条の4)

債務消滅行為について転得者がいる場合についてにも規定を設けました

例えば、受益者の100万円の債権に対して、債務者が1,000万円の土地を代物弁済されたとします。

転得者が当該土地を取得するためにした反対給付の価額(代物弁済の場合には消滅した債権額)を限度として、転得者は受益者の債務者に対する復活債権を行使することができます。

 

7 取消権行使の期間制限(426条)

2年の期間制限の起算点を、詐害行為を知った時からとして、受益者の悪意の認識(例えば債権者を害する意図など)は不要なことを明確化しました。

従前は、取消権行使について20年の期間制限が定められていましたが、これを短縮化して10年と改正しました。

この期間制限は、消滅時効ではなく出訴期間であることを明示しました。その結果、通常の消滅時効のような更新・完成猶予の規定は適用されません。

 

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