債権者代位権について

民法改正(令和2年4月1日施行)

債権者代位権について、判例の実務を明文化するとともに、新たな規定を追加しています。

 

 差押禁止債権の代位行使の禁止の明確化(423条1項但書)

債権者が、債務者の有する差押禁止債権を代位して行使することを禁止する旨明文化しています。

差押禁止債権は債務者の責任財産に含まれないため、これまでも実務では代位行使は禁じられていましたが、規定がなかったため条文に明確に規定することとしたものです。

 

2 強制執行できない被保全債権による代位の禁止を明文化(423条3項)

強制執行ができない債権を保全するために債権者代位をすることはできません。

なぜなら、被保全債権が強制執行できないものである場合には、債権代位行使によって、強制執行の対象となる責任財産を保全するという関係自体が存在しないためです。

 

3 裁判上の代位制度の廃止(旧423条2項)

裁判上の代位のいう制度が旧法ではありましたが、これが廃止されたため、これに該当する条文が削除されました。

裁判により責任財産を保全する方法としては、民事保全制度が定められていて、実務上も民事保全によることがほとんどです。

そこで、必要のない制度を廃止して、責任財産保全の制度を整理したものです。

 

4 被代位権利が可分のときの代位範囲の明文化(423条の2)

債権者代位の対象となる債権が金銭債権のように分割可能なときには、債権者は自己の債権の範囲内でのみ代位行使をすることができます。

例えば、500万円の債権を持っている債権者が、債務者の700万円の債権を代位しようとするときには、500万円までのみ代位ができ、残りの200万円については代位ができないということです。

 

5 相手方への直接の支払請求等の明文化(423条の3)

代位の対象となる権利が金銭債権又は動産引き渡しの場合には、消失の危険もあることから、債権者は自己に直接支払ったり、引き渡したりするよう求めることができます。

これも、実務上は従前から行われていた方法を条文に明確に定めたものです。

 

6 相手方の抗弁の取り扱いの明文化(423条の4)

代位の対象となる債権の債務者、つまり債権者が代位するときの相手方は、債務者に対する抗弁をもって代位債権者にも対抗することができます。

債権者は、あくまで債務者が持っている権利の範囲で代位行使ができるに過ぎないので、債務者に対する抗弁は同じように債権者にも言えるのです。

 

7 債権者の代位後も債務者の財産管理権を確保(423条の5)

債権者が代位をした後であっても、債務者は自らが有する権利について取り立てや処分をすることができます。

また、債務者に対して相手方が履行をした場合にも、その履行をもって相手方は債権者に対抗することができます。

債権者は、責任財産保全のために債務者の権利を代位行使する立場であって、債務者の財産管理までできる立場ではないので、債務者の財産管理に対する債権者の過剰介入を阻止することとしたものです。

 

8 債務者への訴訟告知を義務化(423条の6)

債権者代位による訴訟を提起した場合には、債権者は遅滞なく債務者に訴訟告知(訴訟を行っていることを知らせて参加の機会を与えること)をする義務があります。

債権者代位訴訟の判決の効力は債務者に及ぶため(旧法時代からの通説)、債務者に裁判の審理に参加する機会を与えることとしたものです。

 

9 登記・登録請求権の代位行使(転用事例)を明文化(423条の7)

債権者代位は、本来は、強制執行の準備のために債務者の責任財産を保全しようとする制度です。

もっとも、実務上の必要性から、登記・登録が対抗要件となっている財産の譲受人は、譲渡人が第三者に対して有する登記・登録請求権を代位行使できます。

例えば、A→B→Cと土地が転売されたとします。

このとき、CはBに対して所有者としての登記名義を移転するよう請求する権利があります(所有権移転登記請求権)。

ただ、登記名義がまだAにある場合には、Bが動かないと困るので、CはBのAに対する所有権移転登記請求権を代位行使してB名義にした上で、自分の請求権を実行することとなります。

これは旧法下でも実務上認められていたものを、条文として明文化したものです。

 

「民法改正R2.4.1」トップへ

This entry was posted in 民法改正(令和2年4月1日施行)内容の整理, 債権の総論的な条文の改正. Bookmark the permalink.

Comments are closed.