債権法改正で消滅時効も大きく変わります

民法の大改正の施行が来年の4月1日に迫っています。

 

改正内容から、以前もご説明した債権消滅時効制度が変わるところを、より詳しくご説明します。

 

債権というのは,人に対して一定の財産的行為を請求する権利です。

 

例えば、貸金返還請求のような「お金を支払う」という財産的行為を請求する場合です。

 

弁護士としてご相談やご依頼の中で消滅時効が関係する場面は非常に多いです。

 

貸金売掛金などの債権を回収したいというご相談には、消滅時効期間は大丈夫か?を必ず確認します。

 

逆に、忘れていたような請求がなされてしまったというときも、消滅時効を主張して請求を阻止できないか検討します。

 

消滅時効の期間が過ぎていても、債務者などが時効を主張しなければ、弁済は有効です。

 

そのため、静岡県内でも、時効にかかった債権を安く譲り受けた業者が督促状を送りつけてくるという事案も珍しくなく、私も良く相談を受けて時効を主張すしています。

督促状のイラスト

この消滅時効の期間は、来年の3月31日までは、営業に関係のない債権については請求をすることができるときから10年間、商売をやっている人の債権は5年間で消滅します。

 

そして、これとは別に5年よりも短い時効期間が定められています。

例えば、

・病院の診療費は3年
・小売店でお中元を買った代金は2年間
・飲み屋のツケは1年間
・DVDレンタル、成人式などの貸衣装代も1年間

ハーフ成人式のイラスト「男の子と女の子」

となっています。

 

でも、これらを区別する理由に説得力が余りありませんでした。

 

例えば、成人式などの貸衣装代は貸している期間が短いから1年だけれど、営業用の機械を数ヶ月借りる場合には,貸している期間が長いから商売で貸した場合には5年とされていました。

 

でも、貸している期間が短くても、高額の貸衣装代だってあるでしょうし、機械を数ヶ月貸しても安いときもあるでしょう。

 

両者を区別する理由が良く分からないという批判は、学者からされていたところです。

 

そこで、今回の改正で思い切って整理することにしたのです。

① 債権を行使することが可能であることを知った時から5年間

② たとえ知らなくても客観的に債権の行使が可能であればその時から10年間

で債権は時効で消滅することになります。

 

例えば、貸金債権であれば、返済する期限が決まっていますよね。

 

その場合には、期限になれば「お金を返して」と請求できることは知っているので、期限から5年間で貸金債権の時効による消滅を主張できます。

 

仮に、期限が曖昧で、就職が決まったら支払うというような場合には、借りた人の就職が決まっても、それを貸主に教えなければ「お金を返して」と請求できるかは分かりません。

面接のイラスト「就職活動中の男性」

その場合には就職が決まってから5年経っても貸金債権は消滅しません。

 

もっとも、借りた人の就職が決まっていれば、客観的に見れば「お金を返して」と言える状態です。

 

そこで、貸主が就職が決まったことを知らなくても、就職が決まってから10年経ったら貸金債権は時効の主張により消滅するということです。

 

これ以外には、交通事故犯罪など違法な行為(不法行為)による損害賠償請求については民法は別の消滅時効制度を設けています。

 

このあたりは、また交通事故を例にしてお話していきたいと思います。

 

消滅時効については、期間だけでなく、時効の用語も大きく変わっています。

 

「時効の中断」という言葉も法律用語から姿を消すことになります。

 

ひとまず、来年の4月からは消滅時効にご注意を。

 

「日常生活の法律問題」の過去ブログ記事についてはこちらをご参照ください。

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相続の約束は守られる?

雨が続きますね。

 

時折さしてくる日差しを見ると、久しぶりに太陽を見たなと感じます。

 

さて、今回は相続のお話です。

 

相続では、両親の片方が亡くなったときの相続と、その後の相続とのバランスのトラブルがよく起きます。

 

例えば、父親が亡くなったときに母親が多めに相続したとします。

 

そのとき、「将来の母親の相続のときには、母親の遺産は長男に相続させる」と約束をすることがあります。

 

それと引き換えに、弟や妹がある程度父親から遺産を相続します。

 

母親は自分の子供達が相続で争うと疑うことは余りしないので、その約束を信じます。

 

しかし、父親の相続から何年も経つと、お互いの経済状況や生活も変わってきます。

 

何年も前の約束を守る余裕がなくなったりすることは珍しくありません。

 

こんなときに、長男の立場から言えば、父親の相続のときに2つのことを条件にすべきことになります。

 

1つ目の条件は、母親に「遺産を全て長男に相続させる」という遺言を書いてもらうことです。

遺書を書いている人のイラスト(女性)

でもそれだけだと、母親の相続のときに弟や妹から遺留分を請求される可能性があります。

 

そこで2つ目の条件として、弟や妹に遺留分を放棄してもらいます。

 

この遺留分の放棄は、家庭裁判所で許可を受ける必要があります。

家庭裁判所の建物のイラスト

ただ、母親が生きているうちに、遺言や遺留分のような話をすることは極めてハードルが高いので、実際に、そこまで準備している方は聞いたことがありません。

 

そうすると、長男の立場からは、父親の相続のときに自分が多く相続して、全員の相続税を父親の遺産から出しておくことが大切です。

 

これに対して、弟、妹などの立場からは、母親に多く相続しておいてもらっておけば、母親の相続のときに生活に困っていたら助かることになります。

 

「親の遺産をあてにしない」という考えを全ての人が持てば相続のトラブルは起きません。

 

ただ、相続財産には自分が住んでいる土地や建物があったり、親が子供を平等に扱わない場合もあるので、人の気持ちとしてそうシンプルにはいきませんよね。

 

 

相続の一般的なご説明についてはこちらをご参照ください。

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数学が得意すぎる人は法律に向かない?

先日、友人と2人で居酒屋に入って気持ちよく飲んでお会計にいきました。

 

レジの女の子がにっこりと笑って
「1万5,000円となります。」

 

一瞬、ボッタクリ居酒屋か!と身構えましたが、他のお客さんやオーナーの雰囲気からはとてもそう見えません。

 

クレーマーだと思われないように、私も笑顔で全額を支払った後に確認しました。

 

「レシートをいただけますか?」

 

渡された紙片を見ると、ドリンク400円×2杯のはずが、何故か8,000円との表示が!

 

400円を一桁間違いで入力したことでビックリする金額を生んでいたというワケです。

 

お店の方が丁寧に謝って返金してくれたので、誤解は解けました。

 

の計算も数学(算数)の初歩ですよね。

 

数学は論理で組み立てられています。

 

400円のドリンクを2つ飲めば、それは800円であり、8,000円ではあり得ないわけです。

 

法律の世界も「論理的」であることが尊重されます。

 

法律家も何だか理屈っぽい人が多いですもんね(人のことを言えるかどうかは別として)。

 

ところが、数学が得意な理系の人が法律を学ぶと「論理」に馴染むのに時間が必要です。

 

例えば、「無効」という言葉から考えてみましょう。

 

来年4月からの民法改正で規定に追加された条文に、意思能力を有しない人の法律行為(契約など)は無効とする、というものがあります。

 

幼稚園の子供や認知症の高齢者が契約をしても法律上は効力がないというものです。

 

もともと解釈上当然のこととされていましたが、条文がなかったので正式に定めたものです。

 

他に無効を定めた条文には、公序良俗に反する行為は無効だ、という規定があります。

 

例えば、人身売買など社会的に決して許されない契約は無効だ、という意味です。

 

さて、「無効」というのは法律上の効力を有しないということですから、契約は無いものと一緒ということになります。

 

確かに、後の人身売買の方はそのとおりです。

 

ところが、意思能力の方はそうではありません。

 

例えば、幼稚園の子供が書店に1冊しかない高額の絵本をどうしても欲しくて、親に黙ってお小遣いを使い果たして買ってしまったとしましょう。

絵本を読んでいる子供のイラスト(男の子)

この場合、親が子供の代理人として契約の無効を主張して、絵本を返す代わりに代金を返還してもらうことはできます。

 

これに対して、親が「とても良い絵本だから読ませてあげよう」と思って無効を主張しないこともあるでしょう。

 

そんなとき、例えば本に希少価値があると分かったなどの理由で、書店の方から意思能力がないから無効だとして、返金の代わりに本を返すような請求はできません。

 

つまり、「無効」の主張は子供側からしか言えないということです。

 

ここで数学が得意な人ほど混乱します。

数学者のイラスト

それはそうでしょうね。

 

「無効」とは契約の効力が生じないこと、と定義しておいて、人身売買など誰が何と主張しようと法律的な効力はない、と言い切っています。

 

ところが、意思能力が無くて無効となる場面では「子供の側が良いって言ってるなら有効でもいいんじゃないの」って説明し出すわけですから。

 

数学に例えると次のようになります。

 

リンゴが2つあれば「2個」だから1+1=2です。

 

でも、3個のリンゴから1個引いたときの「2個」、つまり3-1=2の「2個」は先ほどの2個とは意味が違って・・・

 

確かに、意味不明です。

 

昔、数学が得意な人と話をしたときに、「それなら最初から『無効』なんて言うな!」と文句を言っていました。

 

どうして、こんなことが起きるか?というと、法律「人類の秩序と発展のための道具」であって、自然科学の基礎となるような数学とは役割が違うからです。

 

先ほどの意思表示の「無効」の規定も、正しさを求めるものではなく、幼児や認知症の高齢者など判断能力に欠けている人を社会で守ることを求めるものなのです。

 

ですから、守られるべき幼児や高齢者を保護する人(親や後見人)が、「特に不利にならないから、有効でいい」って言っている場面で強制的に「無効」を貫くべきではないのですね。

 

そういう意味で、法律を解釈するときには、「その条文が何のために作られたのか」という条文の趣旨に立ち戻ることが大切になります。

 

数学のレベルでの正しさを追求するものではないということです。

 

数学が苦手な方でも法律は習得できますので、興味がある方は是非。

 

「ご報告や雑感」のブログ過去記事についてはこちらへどうぞ。


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無料求人広告トラブル~商人と消費者のスキマ

久しぶりの投稿になります。忙しさにかまけてサボってしまってすみません。

 

梅雨入りしてスッキリしない天気が続きますね。

 

真夏日と比べてどちらが良いかと言われると難しいですが。

 

さて、最近、消費者や中小企業の相談を受けた弁護士の話題となっていることがあります。

 

無料求人広告のトラブルです。

 

「お試しで無料で求人の広告をお引き受けします。」

 

これだけ聞くとすごくおトクな感じがしますよね。

 

でもウマい話には裏があるのです。

お金につられて罠にかかる人のイラスト

無料で申し込んだはずが、一定期間を過ぎると自動的に有料期間に入ってしまい、その前払料金を請求されるのです。

 

金額は16万円~30万円くらいの額が多いようです。

 

最初の無料申込のFAXやホームページ画面に、内容を判別しにくい文字で一定期間には自動的に有料になる旨が書かれています。

 

「それを前提に申し込んだのだから有効だ!」と強く請求してきます。

 

こんなとき、申し込んだのが消費者だったら、消費者契約法、特定商取引法、電子消費者法などで保護されるので、契約の効力を争うのは比較的簡単です。

 

ところが、求人広告を申し込むのは消費者ではなく、企業人=商人のため、消費者保護のための法律が適用されないのです。

 

でも、中小企業や個人商店などの担当者の知識は消費者と変わらなかったりします。

 

その状況を利用するトラブルは昔から色々と手を替え品を替え起きています。

 

例えば、高額なビジネスフォンを個人商店や中小企業に何のメリットもないのに、あたかもトクするかのような説明をしてリース契約をする問題が流行った時期もありました。

 

それが形を変えて、今では就職売り手市場を利用して、無料求人広告を使って欺そうとする業者が出てきているというわけです。

求人募集の広告のイラスト(男性)

もちろん、全ての業者が悪質というわけではありませんが、無料から有料への変更にあたって、しっかりと意思を確認しない業者は怪しいと思って良いでしょう。

 

では、消費者保護の法律が適用されない以上、お手上げなのでしょうか?

 

必ずしもそういうわけではありません。

 

①無料期間の広告の効果、②有料期間についての十分な説明の有無、③業者の資料の内容や書き方、③その業者が全国で同様のトラブルをおこしていないか、などから契約の有効性を争うこともできると思います。

 

裁判になったときには興味深いモデルケースになるのでしょうが、請求額からして弁護士に依頼して裁判までやらないことが多いようです。

 

消費者は知識がない弱者だから保護するけれど、商売をやっている人は自分でしっかりと判断できるから保護しない。

 

一見妥当に見える法律の趣旨と実態(知識のない商人が数多くいること)のスキマを狙ったトラブルは今後も起きてくると思います。

 

法律で一律に商人を保護することはできないでしょうから、裁判例の積み重ねに期待するしかないですね。

 

ひとまず、無料求人広告の誘いにはご注意を。

 

「契約のお話」の過去ブログ記事についてはこちらをご参照ください。

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カテゴリー: 契約のお話 |

調停に行くときの心がまえ

桜の木も紅色と緑色が混じる季節になってきましたね。

 

全国的にも寒い日と暑い日が予測しにくい日が続いているようですので、体調には十分お気をつけ下さい。

 

今回は調停手続での対応の心がまえについて考えてみたいと思います。

 

「調停は話し合いの場ですから、お互いに自由に意見を言っていただいて構いませんよ」

 

調停手続が始まるときに、家庭裁判所や簡易裁判所の調停委員から最初に説明されるときの言葉です。

 

これは静岡県の裁判所だけでなく、日本の裁判所のとこでも同じ説明がされているはずです(私が静岡県外の裁判所に行ったときも同じでした)。

真剣な会議のイラスト(老若男女)

これはそのとおりなのですが、だからといって自分が自由に意見を言って上手くまとまるというわけではありません。

 

離婚であれ、遺産の問題であれ、調停になる場合には申立人と相手方とは感情も利益も対立しています。

 

例えば、離婚に伴う養育費で考えてみましょう。

 

金額を決めようとするときに調停委員が出してくるのは養育費算定表です。

 

縦横の収入額に父親と母親の収入をあてはめて大体の養育費の基準額が分かるということです。

 

でも、母親は実際に子どもを育てるのにいくらかかるか?という目で養育費を考えます。

 

その目で見ると、例えば子ども1人1ヶ月3万円、合計6万円とか言われると、「それで育てられるんですか?」という気持ちになります。

 

逆に父親は、自分の収入から生活や老後の貯蓄に必要な費用を差し引いて、それでも養育費が支払えるか?という目でみます。

 

そうすると、とても毎月6万円も支払続けられないという気持ちになったりします。

 

そんなときに調停委員が子どもを可愛そうだと思って少しでも養育費を増やそうとすれば、父親からみると非常に不公平に見えるでしょう。

貧困にあえぐシングルマザーイラスト

逆に、父親の収入が不安定だといって減らそうとすれば、母親からは子どもの敵のように見えるでしょう。

 

養育費の金額は幅のある記載となっているので、調停委員がどちらかに味方しているように感じてしまうことは多いです。

 

そんなときに「話し合いの場だから自由な意見」を冷静に説得的に説明できるかが調停での結果を左右するのです。

 

「養育費の幅といっても5,000円から1万円程度でしょ」

 

って思われた方!

 

もし、お子さんが6才と3才だとした場合月額5,000円の養育費の差が20才までで合計で幾らになるか計算してみましょう。

 

2,500円×(14年×12ヶ月+17年×12ヶ月)=93万円

つまり、調停の場で数分検討して5,000円を譲ると、その後長い目で見て合計で93万円を失うことになるのです。

 

調停に行かれる方はその辺りを十分にご理解の上、十分な情報と心の準備をして自由な話し合いの場に臨む必要があるということを覚えておいていただければと思います。

 

 

「裁判手続で知っておきたいこと」の過去記事はこちらへどうぞ。

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退職金やボーナスを減らすことは自由にできるの?

暖かくなってきて、静岡市でも桜の花が開き始めました。

 

年度末になって裁判所の期日が少ないので、弁護士業界は比較的余裕のある時期かもしれません。

 

さて、今回は従業員の給与、賞与(ボーナス)、退職金の減額について考えてみました。

 

会社が従業員の給与や退職金の額を下げるなど、従業員に不利益に賃金を変更する場合には、それが契約である以上、個別に従業員の承諾を得るのが原則です。

 

もっとも、会社が毎年赤字に苦しんでいたり倒産寸前の場合には、会社を立て直すために、就業規則を変更して一律に賃金の切り下げをすることは必須です。

 

会社が苦しんでいるときにも同じような支払を強制したら、会社が倒産してしまってかえって従業員の不利益になってしまいます。

会社のキャラクター(死にそう)

そこで、このような「高度の必要性に基づいた合理的なもの」に限って就業規則による一律変更も許されています(最高裁の判例)。

 

この「高度の必要性」があるかどうかは、裁判で厳しく判断されるので、否定されている裁判例も多いので注意が必要です。

 

例えば、ある企業で、定年退職後に再雇用された常勤嘱託従業員について退職金が支払われていました。

 

この企業では、定年退職したときにも退職金を支給していたので、再雇用を止めたときに2回目の退職金を支払うことを止めたかったようです。。

 

また、この企業では一定期間を限定して雇う従業員については退職金が支払われていませんでした。

 

再雇用者だけを特別扱いすることも止めたかったのでしょう。

 

しかし、この事案で裁判所は、 以上の事情だけでは「高度の必要性」は認められないとして退職金を支払うよう命じました。

 

結局、企業としては、これから契約をする将来の再雇用者についてだけ退職金の廃止が出来るに過ぎないことになります。

 

一見厳しいようですが、再雇用されたときに退職金が支払われると約束した従業員から見れば、突然、退職金が廃止されたら生活設計が狂うかもしれませんね。

 

では賞与(ボーナス)の減額はどうでしょう?

給料日・ボーナス日のイラスト

賞与は会社の業績や従業員の功績によって支払うものですから、減額もできそうです。

 

確かに「年2回業績に応じて支給する」というような定めが就業規則や賃金規定にあるのであれば、「業績に応じて」増減することは従業員も折り込み済みですから企業の判断で減らしても構いません。

 

これに対して、例えば「3か月分賞与として私有する」という定めがある場合に、これを1か月に減らすような場合には不利益変更の問題となります。

 

この場合に一方的に減らした場合には、裁判で無効とされる可能性があります。

 

就業規則や賃金規定にも工夫が必要ということですね。

 

労働問題のブログ過去記事についてはこちらをご参照ください。

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カテゴリー: 労働事件のお話 |

高い教育費は特別受益として遺産に戻すべき?

スギ花粉の量が多くなりましたね。

 

花粉症の私には厳しい季節です。

 

私がくしゃみをしていても風邪ではないので、ご相談者の方々は移ることはないのでご安心を。

 

さて、今回は相続における特別受益のお話です。

 

例えば、遺産を分けるときに兄弟姉妹の中に特別に高い教育費を親から払ってもらっていた人がいた場合、「特別受益」として教育費分を遺産に戻すよう請求できるでしょうか?

 

過去の裁判例を見ると、兄弟姉妹の間の教育費を比較して判断している事案が多いようです。

 

実際の事案で多額の教育費を認定しているものには、医科大学、歯科大学の教育費が多いようです。

犬のお医者さんのイラスト

例えば、A、Bの2人の子が相続人となっているとします。

 

その中のBの子(被相続人、つまり亡くなった人から見ると孫)3人に医科大学、歯科大学進学のための大学受験予備校、大学の入学金、寄付金、生活費等を支払った例があります。

 

この大阪高裁の事件では、これらを合計すると1億2,000万円程度の額となったそうです。

 

被相続人が孫のために支払ったとはいえ、実質的には子の扶養義務を負うBの支払うべき教育費が減っているのですからBの利益です。

 

そこで、Aは1億2,000万円を「特別受益だから遺産に戻せ」と請求しました。

 

大阪高裁では、そのうち4,300万円程度を特別受益として遺産に戻すよう決定しました。

 

ここでもAが受けていた贈与があったため、それをBが受けた利益と比較して教育費全額までは戻せとは言いませんでした。

 

実際、教育費についてはどれだけ不公平かを証明するのはけっこう大変ですよね。

 

兄弟姉妹間でも、大学が公立か私立か、親元か一人暮らしか、一人暮らしの場合には男性か女性かで普通は差が生ずるでしょう。

 

このような多くの家庭で見られるような差については「特別」な利益を教育費として受けていないので、特別受益とはいえません。

 

そのため、特別にお金がかかる大学として医科大学、歯科大学の教育費がやり玉に挙げられるのでしょう。

 

ひょっとしたら、今後ロースクール(法科大学院)も標的になってしまうかも?

 

裁判官は、ロースクールの学費がどの程度であれば高額とみるのか、個人的には興味があります。

 

今後、どこかで主張するかもしれないと心の準備だけはしておこうと思います。

 

 

相続の一般的なご説明についてはこちらをご参照ください。

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カテゴリー: 相続のお話 |

金塊窃盗の取り戻し

せっかくの3連休ですが、静岡の今日は雨模様です。

 

驚くことに11日の月曜日に静岡市に雪予報が出ています。何故か最低気温は3度となっていますが・・・

 

さて、今月の初め頃に出た判決で、造幣局の職員(懲戒解雇されて今は元職員)が勤務先から金塊約15kgを盗んだ事件の判決が出ました。

 

私は、まず「造幣局にそんな金塊があるんだ!」と驚きました。

 

どうも、造幣局では、私たち一般国民からの依頼があると金などの貴金属の不純物を取り除いて純度を高くする仕事をしているようです。

 

そのため、お客さんに来てもらうように金塊を博物館コーナーで展示しているようです。

 

造幣局にはお客さんから預かった金塊と博物館コーナーで展示してある金塊があるということですね。

 

金塊なんか盗んでも普通はどうしたらいいのか分かりませんが、その職員は質入れしたそうです。

 

「金塊を質入れ・・・」

 

見るからに怪しそうです。質屋の人は不審に思わなかったのでしょうか?

 

質屋のお客さんは、何とかお金を借りようと色々なものを持ち込むでしょう。

 

身の回りの物、先祖代々相続してきた物、クレジットカードで買ったばかりの物、そして盗品も。

 

お客さんにいちいち「どこから手に入れたのですか?」なんて聞いていたら商売にならないでしょう。

 

判決では、質屋が金塊を質に受け取ったことは、善意無過失(お客が盗んだことを知らず、知らないことについて過失もないこと)だと認めました。

 

これを即時取得といって、ドロボウなどの無権利者から質入れを受けた場合でも質屋は権利を取得できます。

 

では、造幣局はその金塊を取り戻せないのでしょうか?

 

実は、「盗品」の場合には、即時取得にあたるときでも盗難から2年以内なら所有者が被害品を取り戻せるという規定が民法にあります。

 

ここで争いになりました。

 

元職員が行った犯罪は、窃盗なのか?横領なのか?

 

窃盗であれば、金塊は「盗品」ですから先ほどの例外規定が適用されます。まだ2年たっていないので、造幣局は金塊を取り戻せます。

 

しかし、横領となると「盗品」ではないので例外規定が適用されず、質屋の勝ちです。

 

そこで、窃盗横領かが争点となりました。

 

さいたま地方裁判所は、この金塊を「盗品」と認めて、造幣局に軍配を挙げました。

 

窃盗横領の違いって何でしょうか?

 

他人の物を持ち去った場合、占有が被害者にある場合には窃盗、占有が加害者にある場合には横領となります。

 

例えば、職員が私たちから精製するために預かった金塊を持ち去ったとします。

 

この場合、職員に造幣局が金塊の管理をする権限を与えていれば、職員に占有がありますからこれを持ち去る行為は横領になります。

 

横領した金塊は盗まれたものではありませんので「盗品」ではありません

 

しかし、今回、元職員が盗んだのは博物館コーナーで展示されていた金塊でした。

 

博物館は造幣局が訪問者に見せるために展示していて、もともと動かすことは予定していません。そのため、占有が職員にあるとは言えないでしょう。

 

そのため、職員が持ち出す行為を窃盗とみて、金塊を「盗品」と認定したのです。

 

しかし、盗んだ物か、横領した物かは、なにも知らないで質入れや売買で取得した人にとっては関係ないような気もしますね。

 

皆さんの感覚ではどうでしょうか?

 

「契約のお話」の過去ブログ記事についてはこちらをご参照ください。

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カテゴリー: 契約のお話 |

相手に住所を知られずに調停はできるの?

最近、アマゾンのビデオで昔のドラマを見ています。

 

最近では、過去にヒットした「僕のヤバイ妻」というドラマを楽しんでみています。

 

そのドラマにも離婚届が出てくるシーンがありました。

 

見たところ、本物の離婚届の用紙を使っているようです。

 

さて、日本では夫婦で話し合って離婚届を市役所などに提出する協議離婚87.2%を占めています。

 

残りの12.8%が、家庭裁判所における調停離婚裁判離婚などになります。

 

そのうち、法律にくわしくなくても自分でやれる手続が離婚調停です。

 

この離婚調停は、夫婦では話し合いができない状態にあるときに、家庭裁判所の調停委員に間に入って解決を目指す手続です。

 

夫婦が話し合いをできない理由はさまざまですが、その一つにDV(家庭内暴力)があります。

 

多くは夫の妻に対する暴力であり、妻がは逃げるように別居に至ったケースが多いです。

 

ところが、家庭裁判所に申し立てる申立書には、自分の住所を書く欄があります。

 

そして、申立書の写しは相手(この場合には夫)に送られます

 

ここに正直に今住んでいる住所を書いてしまうと、夫が妻のところに来て、また暴力をふるわれるなど身体や生命の危険があります。

 

そこで、裁判所の手続においては、DVなど危険がある場合には、次のような住所を隠す手段が認められています。

① 申立書には別居前の住所(夫と同じ住所)を書く。

② 家庭裁判所に教えた連絡先については「非開示の希望に関する申出書」を提出する。

③ 調停申立を弁護士に依頼しているときには、連絡先は弁護士の事務所を書く。

このような対応により、安心して調停の申立ができるのですね。

 

また、調停が始まったときに、裁判所に提出した証拠、例えば源泉徴収票や給与明細書のコピーなどは相手も見たり、コピーしたりできるのが原則です。

 

そのため、住所や勤務先を知られたくないときには、勤務先の名前や住所が書かれている所をマジックなどで塗りつぶして提出する必要があります。

 

更には、調停日当日に、相手(夫)とばったり出くわすと、事件になってしまう可能性もあります。

 

そこで、「進行に関する照会回答書」(これは家庭裁判所でもらえます)に、顔を合わせないような配慮をして欲しいと書いて提出することで危険を回避できます。

 

また、家庭裁判所では、原則として対面で行う手続もありますので、その手続で顔を合わせてしまったのでは、精神的に参ってしまいます。

 

この場合には、事前に家庭裁判所に対面で手続を行うと、精神傷害、身体の不調の危険があことを診断書などを提出して説明します。

 

そうしておけば、当日、顔を合わせないで手続を勧めるように家庭裁判所も配慮してくれます。

 

本来は、調停手続でも双方の手続保障という意味で、夫婦の両方を公平に扱う必要があります。

 

しかし、DVなど特殊な場合には、片方にだけ秘匿を認めて、調停手続が安全に上手くいくようにしているのです。

 

また、明かなDVでなくても、相手と顔を合わせると精神的に不安定になってしまうような時には、家庭裁判所で状況に合わせて顔を合わせないなどの配慮をしてくれるようになっています。

 

不安があるときには、まず家庭裁判所の調停係に聞いてみるか、お近くの弁護士に無料相談されると良いと思います。

 

 

離婚の一般的なご説明についてはこちらをご参照ください。

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カテゴリー: 離婚のお話 |

自己破産と恩義

3連休の初日、どこかへ出かけられている方も多いと思います。

 

良い天気らしいので、旅行も楽しいでしょうし、家でゆっくりするのも快適ですね。

 

私は、ちょうど静岡でユーミン(松任谷由実)がコンサートをやるので、それを聞きに行く予定です。

 

さて、今回は借金の問題、特に自己破産のお話です。

 

借金が多額になってしまった場合には、以下の3つの方法により生活を立て直していきます。

① 利息をカットして、毎月の支払い額を減らせば返済が出来る人には、弁
 護士が各債権者と交渉して和解する任意整理

② 裁判所の決定により5分の1程度に借金を減らして無利息で支払う個人
 再生

③ 返済の予定が全くたたない人の生活再建のための自己破産

です。

 

自己破産をする場合、ご相談では「破産するとどうなるでしょうか?」という破産後のことについてのご質問が多いです。

 

確かに、破産の決定を裁判所がした場合に、自分の生活や財産はどうなるのかは大切です。

 

これに対して、弁護士破産申立の前の事情を気にします。

 

どうしてでしょうか?

 

それは、自己破産のご依頼を受けたのに、その目的を達成できないことを怖れるからです。

 

例えば、
自己破産の申立をしたのは良いけれど、結局、借金の免除がされないとか
破産決定後に、破産管財人という監督者から依頼者に支払を命じられたりとか
してしまうと、しっかりと依頼を果たせないことになるからです。

 

弁護士が気にすることの一つとして、ご依頼を受けた後やその直前に債権者に返済をしていないか?があります。

 

破産に至る原因は、ご相談者それぞれによって違います。

 

クレジットカードやキャッシングを普通にしているうちに、それに頼りすぎるようなケース。

 

病気・退職・残業が極端に減るなど、突然訪れるケース。

 

会社経営や個人事業をしていて、売り上げ不振や設備の過剰投資が引き金になるケース。

 

ただ、いずれの場合にも弁護士が破産申立前に気にする事情の一つとして、「一部の債権者にだけ返済していないか?」
があります。

 

そして、私が特に注意していることは

 身内や友人からの借入金を除外したり、返済していないか?

② 大切な取引先にだけ、買掛を返済していないか?

です。

 

確かに、恩義のある人に迷惑をかけたくないというのは、人として普通の感情です。

 

しかし、借金に苦しんで、全ての債権者への支払を続けることができなくなったとき(これを「支払不能」と言います)には、「債権者平等の原則」が働きます。

 

お金に余裕があるときであれば、どこの債権者にいくら支払うのかは約束の範囲内で自由にできます。

 

ところが、支払不能になったときには、全ての債権者に支払えないので、破産による配当で債権額の割合で返済するしかありません。

 

その意味で、支払不能になっった時点で、債務者の財産は、全ての債権者へへの支払の原資となるものと扱われます。

 

そんなときに、「迷惑をかけたくない」「これからお世話になるかもしれない」といった個人的な事情で、不平等な返済をすることは許されないのです。

 

そして、一部債権者への支払は、裁判所に破産申立をしてから大きな問題となるのです。

 

例えば、身内や一部の取引先にだけ、支払不能後に50万円を返済していたとしましょう。

 

このようなことをすると、まず、裁判所はその調査と回収の確認のため破産管財人という監督人をつけます。

 

そして、その破産管財人が、破産法の一定の条件を満たすと考えた場合には、返済した身内や取引先に50万円の返還を請求していきます。

 

任意に返還しない場合には訴訟を起こして行きます。

 

結局は、迷惑をかけたくないと思って返済したことで、もっと大きな迷惑をかけてしまうことになるのです。

 

これを見ていくと、借金の相談をされる方は、破産申立前に、「どこまでがセーフか?」ということを弁護士と十分に話し合っておく必要があります。

 

そういう意味では、
自己破産申立前に、どこまで破産手続の行く先を読めるか?
が破産申立をする弁護士にとって一番重要な能力かもしれません。

 

 

借金問題ご解決方法についてはこちらをご参照ください。

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