因果関係で逃げる

今年の2月に水俣病を描いた名著「苦界浄土」の著者である石牟礼道子氏が亡くなったということで、改めて読み直す機会がありました。

 

皆さんも、水俣病(熊本県水俣市)と言えば、日本四大公害被害の一つとしてご存じでしょう。

 

つまり、現在では

工場が港に高濃度の有機水銀を排出
       ↓
魚介類や海藻類が有機水銀を吸収して蓄積
       ↓
この魚介・海藻類を食べた人の身体に有機水銀が蓄積
       ↓
脳や重要な臓器に重大な障害が出て人が水俣病で死亡・後遺症発症

という関係は当たり前の知識として教えられているわけです。

工場のイラスト<designed by いらすとや>

 

当時の昭和30年代には、医学・科学の研究が今ほど進んでいないこともあって、企業側はこのような関係=因果関係を認めようとせず、被害が止まりませんでした。

 

きっと、裁判を起こしたとしても、因果関係が認められることは当時では難しかったと思います。

 

訴えを起こす原告側の代理人になった弁護士からすると、この「因果関係」というのは大きなハードルになります。

 

「因果関係」とは、簡単に言うと、社会生活上の経験からみると、通常その行為からその結果が発生することが相当だとみられる関係をいいます。

 

そして、その判断はあくまで法的な判断のため、医学・科学の知識を補助的に使ったとしても、最終的には裁判所の判断に委ねられることになります。

 

ですから、原告側の弁護士は、裁判官に因果関係をみとめてもらうために様々な証拠を提出していくことになります。

 

これに対して、被告側の弁護士は「その程度の証拠では社会経験上から見ても関連性はない」と因果関係を争います。

 

被告側の弁護士になると、裁判に専門的知識が必要だったり、内容が複雑になればなるほど、「因果関係がない」という所を強く主張するようになります。

 

なぜなら、原告の証明が難しい上、裁判官にも因果関係を認めるには心理的ハードルがあると考えているからです。

 

判決を出す以上、民事事件であっても可能な限り真実に近く、先例として意味のあるものにしなければいけません。

 

ですから、判断するときに法律以外の知識が必要であればあるほど、裁判官は頭を悩ますことになります。

 

例えば、水俣病の因果関係の判断には医学・化学の知識が必須なのに、その専門家でない人が判断するのですから、ハードルが低いわけがありません。

 

それを見越して、被告側の弁護士は「因果関係に逃げる」という手法を取るということになります。

 

もちろん、言いがかりのように全く因果関係が認められないものは論外ですが、裁判になる以上微妙なものが多いのも確かです。

 

今月の27日に四国の高松地方裁判所で出された判決もその手続の中で因果関係が問題となりました。

 

これは、大手ホームセンターのコメリで家具(カラーボックス)を6個買った女性が、家具に含まれるホルムアルデヒドにより体調を崩して被害を受けたとして損害賠償請求をしたものです。

 

これに対して、被告側は、同種の板を使った家具類は約192万台あるが、異変を訴えた顧客は他に一人もいないして、因果関係を争いました。

 

つまり、その女性は別の要素もあって体調不良を起こした可能性もあり、社会経験上からも、そのカラーボックスの成分だけを原因とするのはおかしいという理由です。

 

確かに、人の体調不良は睡眠不足、ストレスなど様々な理由が合わさって生じることが多いため、絶対にカラーボックスが原因と断定するのは難しいでしょう。

 

もっとも、この事件では、二つの点で因果関係を認めやすい事情がありました。

 カラーボックスの板の接着剤から国の指針値を上回るホルムアルデヒドが検出されたこと

 この女性について医師が化学物質過敏症と診断をしたこと

です。

 

高松地方裁判所は、この事情から因果関係を認めて470万円の支払を認める判決を言い渡しました。

 

しかし、これはあくまで化学物質過敏症の女性が原告だったから因果関係が認められたもので、誰が裁判を起こしても認められるというものではありません。

免疫力の弱い人のイラスト <designed by いらすとや>

 

今後、控訴するかどうかは、原告側は悩んでいると思います。

 

控訴審での結論が読めない上に、マスコミに取り上げられるだけで売上に響きそうだからです。

 

さて、最後にちょっと怖いお話を。

 

WHOの下部機関である国際がん研究機関によると、ホルムアルデヒドはタバコの喫煙と同じ「発がん性がある」第1グループに入っています。

 

締め切った部屋でホルムアルデヒドを含む家具を使い続けることは喫煙をしているのと同程度のリスクが生じるという研究結果です。

 

ちなみに、送電線や建物内の電源などからの低周波電場は発がん性は不明とされているのに対して、アルコール飲料はタバコやホルムアルデヒドと同じグループです。

 

電磁波に心配するより、お酒・タバコ・ホルムアルデヒドを含む可能性のある家具(合板で作られた大量の接着剤を使用している安い家具)に注意した方が良いというのが現在の研究結果のようです。

 

しかし、このグループ1であっても、裁判で発がん性との因果関係が現時点の医学や科学では証明することはできないでしょう。

 

この因果関係が明確に証明できるようになったら、健康被害が生じることに対する同意をレジで取られてからお酒を買うことになるかもしれませんね。

 

知った方が良いのか悪いのか、お酒が好きな(強くはありませんが)私には分かりません・・・

 

 

 

「裁判手続で知っておきたいこと」の過去記事はこちらへどうぞ。

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カテゴリー: 裁判手続きで知っておきたいこと

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