裁判官はココをみる

平昌オリンピックが始まりましたね。

 

最高気温が氷点下の中、頑張る選手達を見ていると人間の底力を感じます。

 

怪我や故障に気をつけて、最高のパフォーマンスを見せてくれることを期待しています。

 

さて、私たち個人や法人のような私人の間の紛争は、最終的には民事の裁判で解決します。

 

民事の裁判に関わったことがない方には、実際に裁判官がどこを見るのかは気になるところでしょう。

 

私も裁判官の仕事をやったことがないので推測するしかないのですが、今までの経験や裁判官が書いた本を読むといくつか重視しているポイントがあります。

 

今回は2つの重視するポイントについてお話しようかと思います。

 

まず、一つ目は「書面」です。

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例えば、AがBさんに、「貸したお金200万円を返せ」という裁判を起こしたとしましょう。

 

このとき、Bさんが「確かに、お金はAさんから受け取ったけど、それはもらったもの(贈与)だ」と反論しました。

 

このとき、書面があるかどうかが最も大きく判決に影響を及ぼします。

 

例えば、パソコンで「確かにAからお金を借りました。B」と名前まで書いてあって、そこに認め印でもBさんの苗字の印鑑が入っていれば大きな証拠になります。

 

これに対して、書面がない場合には、Aさんの口座にBさんの名義で毎月1万円の入金がされていても、その200万円の借金返済の証拠とされないこともあります。

 

私たちの社会常識から見ると、ちょと不自然かもしれません。

 

全てをパソコンで作った書面など簡単に偽造できますし、貸金が紛争になっていた時期にたまたまBさんがAさんに1万円入金していたことを重視しないのもちょっと違和感がありますよね。

 

ただ、1万円の入金だけではいくら借りたのか分からず、200万円という金額を認定するのは難しいでしょう(当事者の主張する借金(贈与)の総額がほぼ200万円に一致していれば別ですが)。

 

民事の裁判では、刑事裁判と違って「絶対的な真実」の追求にはそれほど力をいれません。

 

その裁判手続の中でだけ通用する事実相対的な真実)を決めて、それを前提に当事者の紛争を図ろうとするのです。

 

つまり、他に違う考え方や真実があったとしても、紛争解決のためにはその裁判で認定できる事実から判断しようとするわけです。

 

そのためには、「人の言葉よりは、嘘が起きにくい書面を信用していこう」ということになります。

 

そのやり方が良いか悪いかは、私たちが民主主義に従って考えていくことですが、現在は、法律(民事訴訟法など)でそのような制度が定められているのでそれを前提にどう戦うかということになります。

 

では、裁判官が重視する二つめのポイントは何でしょう?

 

これは今のお話から見ると意外かもしれませんが、「当事者や証人の人となり」です。

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書面重視と言った後で、人間重視というのも変に感じるかもしませんがそれは色々な裁判官の書いた本や私の経験から見て事実です。

 

ここで言う「人となり」というのは、貧富とか、社会的地位とかは関係ありません

 

裁判手続で見えてくるその人の人生のストーリーから、客観的に見える部分で判断します。

 

例えば、労働事件で未払残業代をCさんがD社に請求していたとしましょう。

 

タイムカードが見つからなかったので、Cさんの手帳や会社のパソコンのシャットダウンの時間の履歴から残業代を推測して請求しています。

 

ここで、手続がある程度進んで法廷で、当事者(原告・被告)や証人から話を聞くことになった(尋問手続)としましょう。

 

ここで、法廷で話をした内容はもちろん証拠になります。

 

ただ、それ以外にも裁判官が見ているポイントがあるようです。

 

例えば、証言するために法廷に出てきたD社の社長が、ピシッとした背広を着て、裁判官に対して落ち着いて冷静に答えられたとしましょう。

 

これに対して、Cさんは普段着を着てオドオドした態度で、裁判官への答えもしどろもどろです。

 

D社の社長は、法廷に入るときにもCさんに優しく「元気でやっているかね」と声をかけましたが、Cさんは全く無視です。

 

さて、皆さんはこれをどう見ますか?

 

裁判官の心証としては、おそらく残業代の請求権がある」という方向に傾くでしょう。

 

つまり、

① 内面を隠すようなキッチリとした背広

② 法廷に出てきても動じないD社の社長の肝の太さ

③ 法廷でアピールするかのような優しい声かけ

④ それに返事ができないCさんの態度

などからD社の社長とCさんの絶対的な力関係の差が感じられて、裁判官の判断の裏打ちするということです。

 

ここで、見られているのは尋問の内容だけではなく、法廷での姿を通してみた過去にD社でCさんが働いていたときの2人の関係性です。

 

これだけ説明すると「法廷で逆の演技をすればいい」と思う方もいるかもしれません。

 

ただ、先ほどお話したように、事前に「書面」も重視して見られているので、それはなかなか難しいでしょう。

 

法廷に当事者や証人が出る前には、弁護士から裁判所に合計数百枚にわたる主張や細かい字でびっしり書かれた証拠が出されています。

 

その主張の中で言っていたことや提出した証拠と矛盾しない言動を、法廷で演ずることはとても難しいと思います。

 

このように、客観的な書面などを踏まえて、法廷などで当事者や証人の「人となり」を見られるということなのです。

 

それを考えると、私たち弁護士の仕事も、法律的な主張を書面や口頭でするだけでなく、依頼者のプロデュース的なことも大切になるのでしょうね。

 

 

「裁判手続で知っておきたいこと」の過去記事はこちらへどうぞ。

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カテゴリー: 裁判手続きで知っておきたいこと

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