性犯罪、相手の意思はどこに?

静岡を含む東海地方も梅雨入りしたようです。

 

基本的に雨の日は苦手なのですが、梅雨と紫陽花は日本の四季の美しさの一つだと見ることもできます。

 

紫陽花で有名な北鎌倉の明月院なんて(すさまじい混雑を除けば)、この時期は風流ですよね。

 

最近は、昔より苦手なものとの折り合いの付け方にも慣れてきたように思えます。

 

さて、風流とはほど遠いお話ですが、今朝ニュースを見ていたら8日の木曜日に刑法改正の法案が衆議院を通過したとのことです。

 

現在の国会の勢力図で参議院で否決されることはないでしょうから、ほぼ決まったと言って良いでしょう。

 

さて、気になるその改正の内容ですが、メインテーマは性犯罪の厳罰化ということです。

 

まず、現在「強姦罪」として規定されている犯罪について、「強制性交等罪」と改めて、被害者に男性も含めるようにします。

 

現在の強姦罪の被害者は、「女子」と定められていますので、男性は入りません。

 

しかし、特に青少年が被害者となる性犯罪の場合、女性に限らず男性も性交類似行為によって被害を受けています。

 

これまでは男性が被害者の場合には強制わいせつ罪で処罰されてきましたが、それでは刑が軽すぎるということでしょう。

 

そして、その強制性交等罪について、従前の強姦罪が「3年以上の有期懲役」としていたのを、「5年以上の有期懲役」に引き上げます。

 

また、今までの強姦罪では被害者の女性が加害者の処罰よりも、ご自分のプライバシーを尊重するために、被害者の告訴がないと処罰できませんでした。

 

これをとりやめて、被害者の告訴がなくても処罰できるようにしています。

 

つまり、被害を警察が発見したら、被害者の意思に拘わらず、逮捕して検察官が起訴し、裁判所が有罪判決を下すことが出来ます。

 

性犯罪は卑劣ですし、被害者は体以上に心に大きな傷を負いますから本当の意味で被害者保護になるのであれば私も賛成です。

 

しかし、今回の改正についても違う見方もできます。

 

確かに、今までの強姦罪の被害者には男性が入ってはいません。

 

もっとも、仮に強姦罪と同様の性交類似行為で被害を受けた場合、通常のわいせつ行為とは異なり、その行為の性質上、被害男性が無傷ということはあり得ません。

 

そうすると、加害者に適用される条文は、常に「強制わいせつ致傷」になり、その法定刑は「無期又は3年以上の懲役」です。

 

つまり、「強姦罪」よりも重いわけです。

 

そして、強姦罪について変更するのは「短期」といって、最低〇年以上という部分です。

 

今の法律でも裁判所が悪質だと判断すれば懲役5年でも10年でも判決は出せます。

 

ですから、むしろ厳罰化の意味は、あらゆる性交等の強制行為に「画一的に軽い処罰を許さない」ということにあります。

 

また、一歩引いて国の制度として見た場合、裁判所の裁量を信用せずに、国会の多数決で画一的に刑の下限を定めるということです。

 

私の意見としては、男性、特に青少年を強姦罪の被害者に入れて強制性交等罪とすることは現代の問題から必要だと思うので賛成です。

 

しかし、強制性交等罪の下限を画一的に引き上げたり、被害者の意思を無視した親告罪の排除には反対です。

 

皆さんは強姦罪というとTVや映画でのレイプのイメージがあると思います。

 

しかし、実際に刑事事件を担当していると、悪質な強姦罪と少し違うケースとの区別が非常に難しいのです。

 

例えば、本当に悪質な強姦罪でも、被害女性は怖くて動けないことが多いので、怪我をしていないことは珍しくありません。

 

被害場所が、山中、河原、人通りが少ない街中などであれば、そこから悪質な強姦罪と推測できます。

 

ところが、珍しくないケースとして、被害場所が相手男性の部屋とかラブホテルがあります。

 

被害者からは、相手の部屋やラブホテルに行ったのは「怖くて逆らえなかったから」という主張が必ず出てきます。

 

実際、日頃から暴力を受けていれば、それも十分あり得るでしょう。

 

しかし、ラブホテルの動画映像で、男女が仲良く部屋を選ぶシーンがありながら、強姦罪として有罪にされているケースも実際にありました。

 

性交等強制罪」と「人の愛の確認」との境界が「相手の意思に反していたか否か」という極めて曖昧なものであることを忘れてはいけないと思います。

 

また、強姦罪(強制性交等罪)について被害者の告訴を不要とすることも大きな問題があります。

 

ご自分のプライバシーを守りたくて被害を隠していたとしましょう。

 

そんなときに犯行が発覚する最も多いケースは、加害者が他の犯罪で逮捕されて、強制性交等罪を自白する場合です。

 

警察は加害者の余罪を捜査しますので、いきなり事情聴取を被害者に求めていくことになります。

 

せっかく、犯罪被害を他人(場合によっては家族にさえ)に知られず、自分も忘れるように努力しているところに、突然、捜査の対象とされたらどうでしょうか。

 

特に、加害者が悪質なほど、法廷でいきなり強制性交等罪を否認することがありますので、その場合には被害者の方は公開の法廷に出頭して証言しなければなりません。

 

遮蔽措置などで傍聴人に見られない工夫はありますが、犯行被害の細かい事実を根掘り葉掘り聞かれることの苦痛は察するに余りあります。

 

強姦被害の後に二度目の被害にあうということにならないでしょうか?

 

今回、男性も被害者に入ったので私を含めて男性の方も被害者になった場合を想像できるでしょう。

 

強制性交等の被害にあったときに、警察に捜査して刑事裁判で処罰して欲しいか?

私の答えはNO!です。

 

自分だけの秘密にできればそうしたいと思いますし、必要があればそれなりの報復を(一応適法に)行うことを自分なりに検討するでしょう。

 

逆に、強制性交等罪になったことから、女性が加害者になり得ることにもなりました。

 

女性が会社の上司だったり先輩だったりするケースでは、女性も相手から「意思に反していた」と後から言われないように注意が必要でしょう。

 

改正は決まってしまったことなので、今後、どのように運用されるか、私自身が弁護人になった刑事事件を見ながら判断していきたいと思っています。

 

刑事弁護についての基礎知識についてはこちらをご参照ください。

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カテゴリー: 刑事事件のお話

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