忘れられる権利は認められる?

インターネットの世界では、検索エンジンがないと何も出来ない時代ですよね。

 

膨大な情報の中から目的となる情報を見つけ出すにはGoogleやYahoo!のような検索エンジンからたどり着くしかありません。

 

検索エンジン抜きでインターネットをするのは、地図のない時代に目的地に行こうとするようなものです。

 

逆に、検索エンジンが優秀であれば、ネットを使う人が情報を早く簡単に見つけ出すことが出来ます。

 

今の日本では、インターネットで情報を探すときには、googleかYahoo!を使うことがほとんどで、全体の9割以上を占めているとのことです。

 

そして、Yahoo!の検索はgoogleの仕組みをそのまま借りているとのことなので、日本でのインターネットでの情報検索はgoogleのさじ加減で9割以上が決まる状態にあります。

 

そのため、自分のプライバシーに関する情報がどこかのHPに実名で記載された場合、そのHPの管理者が削除するか、googleが検索リストから外すまで、日本(多くの先進国)中に自分のプライバシーが公開されることになります。

 

今回は、過去に児童買春の疑いで逮捕された男性が、その事実が掲載されているウェブサイトが、事件から5年経っても容易に検索されてしまうことから、google㈱への登録削除を求めました。

 

google㈱がこれに応じてくれれば、少なくとも検索エンジンを通じて自分の逮捕歴が知られる可能性は1割未満になるということでしょう。

 

この裁判では、まず、そもそもgoogleの検索結果はプログラムで自動的に表示されるものに過ぎないので表現行為にあたるのかが問題となりました。

 

最高裁はこの点について、
プログラムを組むときにgoogle㈱の方針があって、それに従って選ばれて表示されるという性質上、ウェブサイトへの掲載者とは別個の表現者と言える
としました。

 

とすると、google㈱の検索結果という表現行為により、その男性のプライバシー権が侵害されていないかが問題となります。

 

最高裁6つの要素を上げて、これらを比較して重要性を考慮して、判断すべきとしました。

 

6つの要素をそのまま抜き出すと次のとおりです。

 

 当該事実の性質及び内容

 当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度

 その者の社会的地位影響力

 上記記事等の目的意義

 上記記事等が掲載された時の社会的状況その後の変化

 上記記事等において当該事実を記載する必要性など

 

そして、最高裁によると、

・児童買春が児童に対する性的搾取及び性質虐待と位置づけられている(の要素)

・だからこそ、社会的に強い非難の対象とされており罰則をもって禁止されていることから国民全体が知ることについて利益を持つような事実である(の要素)

・この検索がその男性の居住する県の名称及び男性の氏名を条件としたものであるため当該事実が伝達される範囲は限られていること(の要素)

・その男性には妻子がいて、逮捕されて罰金を支払った後は犯罪を犯すことなく民間企業で働いている(の要素)が、それよりも他の要素の方が重要なこと

から、google㈱の公表を削除するほどの権利侵害があるとは認めませんでした。

 

この最高裁の決定によると、社会的には強く非難されるべき犯罪については、相当広く検索結果表示を認めることになります。

 

しかし、そもそも前科については高度にプライバシーに関する事実であって、戸籍にも市町村で発行する証明書にも掲載されません。

 

ところが、ほとんどの犯罪は逮捕された時に報道され、ネット上に掲載されることから、新聞社等の記事から個人のHPへの転載の記録が残ることが多いです。

 

私が見るところでは、新聞社等は一定期間で削除するように個人のプライバシー権に配慮していることが多いようなので、本当に問題になるのは、私的なまとめブログなど、転載された情報でしょう。

 

最高裁は、「その個人が転載した記録が検索結果で表示されるかどうか=インターネット上で知られ得るか否か」の決定権をgoogle㈱という私企業に委ねたことになります。

 

確かに、google㈱は私的な団体であり、その表現の適切、不適切に国家の一翼を担う裁判所が介入して削除することの危険は慎重に配慮すべきです。

 

ただ、他方ではgoogle㈱がネットの巨人であり、圧倒的強者であることも現実です。

 

今回この力関係には最高裁は触れてはいないので、今後の判例による判断を待つことになります。

 

また、この最高裁の決定が、児童買春以外の前科に当てはまるわけではないため、交通事故など別の刑事事件の記載については、また別途検討が必要になってくると思います。

 

インターネットと法律の過去記事はこちらをご参照ください。

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カテゴリー: インターネットと法律

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