良い人ほどウソをつく?

最近、民事訴訟の手続をどのように進めていくのが良いのかを協議する会議があって、私がその司会をやりました。

 

その時に、

「裁判では、印象の良い人だからといってウソをつかないとはいえない。」

という話が出てきました。

 

私たち法曹は「印象の良い」かどうか判断するときには、その人の口調や表情がにこやかとか、ぶっきらぼうとか、そういう表面的な部分はほとんど見ません。

 

その人の経歴裁判以外での行動裁判の主張で争いの無い部分裁判手続での要求の合理性など、周辺的な部分から判断していきます。

 

例えば、母親の相続問題で揉めている場合、その前の父親の相続の時にはどのような主張をして、どのような解決をしたのか?

 

定年前の年齢の人であれば、真面目に仕事をしている人なのか、それとも特別な事情も無いのに働かずに生活をしている人なのか?

 

裁判で、過去の裁判例や法律の解釈を分かるように説明した時にも、最初から拒否するのか?一旦考えてきてから回答を出すのか?

 

などなどです。

 

でも、この判断から、その人の人となりはある程度理解できますが、弁護士の打合せ裁判の証言ウソを言わないかどうかの判断には直接は結びつかないのです。

 

なぜなら、人がウソをつく動機は千差万別だからです。

 

先ほど、周辺事情から「人として良い印象だな」と思っていても、そういう人だからこそ、例えば親をいじめていた長男を許せずに、この相続に限ってはウソをつくということもあります。

 

特に、良く言うと「器が大きい」、悪く言うと「神経が太い」という人ほど、一旦ウソをつくと決めた時の徹底さはなかなかのものがあります。

 

依頼者がこのような方の場合、弁護士も気持ちよく騙されてしまうと思います。

 

弁護士の場合、結果的に騙されても依頼者に有利に事が進んだのであれば、終わってしまった後に気づいても、全く気にしません。

 

もっとも、裁判の途中に薄々気がついたり、明らかに分かってしまった時の対応は非常に困ります。

 

「不利だけれど本当のことを言って下さい」

 

ということは、なかなか民事事件だと言いにくいんですね。

 

ウソかも?という程度だと、私の誤解の可能性も捨てきれないので何も言いません。

 

しかし、明らかに分かってしまう場合には、どうせどこかでバレる可能性が高いですし、それが裁判で尋問している最中だったりすると最悪なので説明するようにしています。

 

例えば、ひどい長男が無理やり親に書かせた遺言に対して、二男が遺留分の主張をしているとしましょう。

 

実は、親孝行な二男は、母親の生前に自宅の土地をもらっていて、長男から

「何か母親から生前にもらっているのではないか?」

と生前贈与の可能性を指摘されている場合です。

 

土地をもらっていれば、その分だけ、遺留分の取り分から差し引かれてしまいますから、二男としては認めたくないところです。

 

「親孝行をして、感謝の気持ちにもらったものを、母親にひどくしていた長男のために、どうして差し引かれなければならないのか?」

 

その気持ちは分かります。

 

ただ、自宅の登記事項証明書に登記原因として母親からの「贈与」が記載されていれば、一発アウトです。

 

さすがに、こんなケースで弁護士としては、依頼者の自宅の土地・建物の不動産登記事項証明書をとらざるを得ません。

 

相手の弁護士が、敢えてぼかして生前贈与の主張をしていて、こちらに

「何ももらっていない」

とウソをつくのを虎視眈々と待っているリスクがあるからです。

 

こんな時は依頼者のために、

「この証拠を出されたら一発アウトですし、裁判所の信用も失ってしまいますよ。」

と説明せざるを得ないのですね。

 

ただ、依頼者の方が「良い印象」であればあるほど、

「自宅の登記事項証明書まで取らなくても良いだろう。」

と弁護士も油断しがちなのは確かです。

 

悲しいですが、

「人はどんな人でもウソをつく可能性がある。」

という前提で、私達弁護士や裁判所は仕事をしなければならないんですね。

 

 「裁判手続で知っておきたいこと」の過去記事はこちらへどうぞ。

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カテゴリー: 裁判手続きで知っておきたいこと

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