捜査機関がGPSを勝手につけるのは違法?

最近売れているらしい、医師の近藤誠氏の本。

 

「医者に殺されない47の心得」「余命3カ月のウソ」など、衝撃的なタイトルで本を多数出しています。

 

医師の世界の醜い部分を強烈に指摘するとともに、がんの放置、抗がん剤の未使用を強く勧めています。

 

弁護士業界と比較して考えてみると、おそらく患者に隠されてる真実を描いている面と、ご自分のビジネスのために極論を書いている部分があるのでしょう。

 

近藤氏が臨床から離れてセカンドオピニオン外来しかやっておらず、30分で3万2,000円という診断費用をとっていることを見ると、???と思うところもあります。

 

医師のことは分かりませんが、「セカンドオピニオン法律事務所」という名前で、日々刻々と変わっていく現場の実務をやらないで、法律相談だけ受けて稼いでいる弁護士がいたら、確実にインチキですね。

 

そこまでいかなくても、弁護士業界にも、追い詰められた方の心理を利用して高額の弁護士費用を請求している弁護士もいます。

 

その種の弁護士に近い面が近藤氏側にあるのか、それとも批判する多数派にあるのか、簡単に2分はできなさそうです。

 

最近では、ネット上でも、書籍でも、近藤氏の理論の誤りを客観的に指摘しているものが多くみられます。

 

例えば、長尾和宏医師の本

「『近藤理論』のどこが間違っているのですか?」「医療否定本に殺されないための48の真実」

などに書かれている、患者や症状ごとに、治療の選択は個別に考えるしかないという意見には同感です。

 

近藤氏は、業界の闇を患者にオープンにしたという歴史的意義はあるのでしょうが、臨床も経験していない近藤氏の話を現在もそのまま信じてしまうのは正直怖いという印象です。

 

これからは、がん治療についても、色々な情報を収集し、医師の意見を理解して、自ら決断する力が患者の方にも必要になりそうです。

 

さて、出かけるときに便利なスマホやカーナビにつけられているGPS。

 

自分のいる位置が、瞬時に計測されます。

 

スマホでアプリを使う時、GPSを使う時には許可の画面が出ることが多いですよね。

 

これは、「何月何日何時に自分がどこにいたか?」という情報は、個人のプライバシーとして非常に重要な情報だからです。

 

その情報を集められて、地図と照合されてしまえば、仕事場に何時間、自宅に何時間、どこのお店に何時間、というように自分の趣味や行動がほとんど把握されてしまいます。

 

最近ではマグネット式やシール式で簡単に自動車につけられる小型のGPS装置が開発されています。

 

そのため、自動車の外側から簡単につけることができるんですね。

 

これを利用して探偵会社などは不貞行為の調査に使用することもあるようです。

 

では、警察がこれを利用して捜査をする場合に、裁判所の令状をとる必要があるでしょうか。

 

警察官や検察官は、国会から法律という形で民主的(多数派からの)コントロールを受ける立場です。

 

これに対して、裁判所は少数派の権利も保護する別個独立の司法機関なので、それぞれ性格が違います。

 

そして、行政機関である警察が個人の権利を侵害する形で捜査(強制捜査)する場合には、少数派=私たち一市民の権利侵害が生じやすいのです。

 

そこで、憲法は、強制捜査をするには、司法機関である裁判所の裁判官が発する令状が必要として、私たち個人の権利を保護しているのです(令状主義)。

 

では、捜査対象者の車にGPS端末をこっそり取り付ける捜査手法は強制捜査でしょうか?任意捜査でしょうか?

 

任意捜査なら裁判所の令状が不要ですし、強制捜査なら令状が必要です。

 

名古屋地裁の判決の事例は以下の通りでした。

 

愛知県警は、平成25年6月、住宅や店舗を狙った窃盗事件の犯人と疑われる男性が乗る乗用車の底部に裁判所の令状なしにGPS端末を装着しました。

 

被告人の位置検索をしながら行動を追いましたが、3カ月後に被告が端末に気づいて取り外しました。

 

その間、検索は1653回、多い時は1日109回に達しています。

 

名古屋地裁の判決は、位置情報を正確に把握できるGPS捜査を県警はいつまで続けるかも決めておらず、長期にわたるプライバシー侵害の恐れがあったと指摘しました。

 

そして、「任意の捜査として許される尾行とは質的に異なる」としてGPSの取り付けを強制捜査として、令状のないGPS捜査は違法としたのです。

 

もっとも、事件当時はこうした司法判断がなかった点を考慮し、弁護側が求めた捜査資料の証拠排除は認めなかったので、被告人は有罪とされました。

 

このため、弁護側は控訴しています。

 

昨年は、大阪地裁でも令状のないGPS捜査が重大な違法とされました。

 

いずれも控訴審で争われているとはいえ、2つの地裁で違法との判決が出ている以上、警察のGPS捜査はしばらく控えられるかもしれません。

 

そもそも、「被疑者」かどうかは、警察が一方的に決めてしまうので、私たちの自動車にいつGPS端末が取り付けられるかわからないと思うと気持ち悪いですよね。

 

やはり、プライバシーを考えると、令状なしでのGPSの取り付けを任意捜査として広く認めるのは怖いと思います。

 

今後、GPS端末取り付け令状の要件が最高裁で示されるかもしれません。

 

なお、民事裁判では、GPSの無断取り付けで得た資料は、権利行使の範囲内と言えれば証拠として使えるでしょう。

 

例えば、夫や妻が浮気している疑いがある場合に、それほど長期にわたってではなく、配偶者の自動車にGPSをつけていたケースなどでは、証拠として使えるでしょう。

 

刑事裁判ほど証拠について厳しい判断はされないからです。

 

刑事弁護についての基礎知識についてはこちらをご参照ください。

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カテゴリー: 刑事事件のお話

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