サルでもできる弁護士業?

最近、にコンビニに行って違和感を感じることがあります。

 

レジに行って商品を出すと、

 

「いらしゃいませ。」

 

会計を済ますと

 

「ありがとうございます。またご利用くださいませ。」

 

ここまでは普通です。

 

ところが、その後にレジの前で

 

「いらっしゃいませ」

 

とまた言われることが結構あります。

 

外からお客さんでも入ってきたのかと確認しても、その様子はありません。

 

何故だろう?と考えてみました。

 

私が思ったのは、本部で一括管理されているマニュアルに、相当たくさんの言葉を言うような指示が出ているのではないかということです。

 

マニュアルには、レジ対応の指示や、店内にお客さんが入ってきた時に「いらっしゃいませ」と言うよう指示が入っているのでしょう。

 

その他にも指示されているマニュアル言葉があるかもしれません。

 

そして、忙しい時には、次々と店内にお客が入ってくるので、とりあえず「いらっしゃいませ」といっているうちに、その言葉が機械的に出てしまうようです。

 

私は、こんな時、自動販売機で物を買った時のような無味乾燥な印象を受けます。

 

言い換えると、私を「人間」と認識してもらっていないという感じです。

 

もちろん悪いのはそこで働いている方ではなく、ロボット作業的なマニュアルを指示する本部であることは間違い有りません。

 

「マニュアル化」というのは、簡易な事務作業をする場合には効率的ですが、それをサービス業に盛り込みすぎると、長い目で見ると逆効果だと思います。

 

コンビニのレジ対応でもそう感じるのですが、このマニュアル化の徹底を弁護士業でもやろうとしたケースがあります(現在でも、そのような事務所はあるようですが)。

 

タイトルに書いた「サルでもできる弁護士業」

 

ある程度経験のある弁護士であれば、ほとんどの人が知っている本のタイトルです。

 

なぜならば、執筆した弁護士が、約6年ほど前に、おそらく全国の全ての弁護士に本を無料配布したからです。

 

もちろん、私の所にも頼んでもいないのに送られてきました。

 

その本によると、

 

「弁護士は1年に30件~40件しか仕事をしない。」

 

「そのため、1件あたりの単価が高くなっている。」

 

「依頼者」の「怒りや悲しみなどの喜怒哀楽も聞いてしまっていた。だが、こうした部分は弁護にはまったく不要

 

として、依頼者の感情を理解する時間を「ムダな時間」としています。

 

そして、事務員(パラリーガル)が、5W1Hで答えられるチェックをした後、弁護士は法的に必要な補充の質問を行うということです。

 

その上で弁護士が方針を決めたら、細かく分類されたマニュアルに従い事務員(パラリーガル)が弁護士の指示に従って処理を進めていくそうです。

 

これにより、1年間で受任できる事件数が飛躍的に多くなり、1件の単価を安くした上で、多くの人を救済できるとのことです。

 

単に、弁護士の事件1件あたりの事務負担を減らすということだけを考えれば、この方法は効率的です。

 

現在も、この方針に近い事務所もあるようです。

 

ただ、この考え方には、やはり同業者としては???という面が多々あります。

 

まず、年間30件~40件しか弁護士が仕事をしないというのは、私の場合には当てはまりません。

 

私は、訴訟・調停・破産関係・交渉事件・財産管理だけでも、少なく見積もって50件以上の事件を常に併行して行っています(1件の事件の規模が大きいか小さいかは別ですが)。

 

また、それとは別に、突然の刑事事件、様々な実務研修の講師、大学の講師、法人役員の仕事などが入っています。

 

新しい事件のお引き受けは、今までの事件が終了した隙間に入れていくようにしています。

 

そのため、事件数が多すぎて、かえってお引き受けすると依頼者にご迷惑をかけてしまいそうな時には、ご相談の予約自体をお断りする時期が時折あります(この場を借りてお詫び申し上げます。)。

 

事件解決が年間合計何件になるか公にはできませんが、年間40件程度しか解決をしないということはあり得ません。

 

これは、別に私に限ったことではなく、忙しくしている弁護士であれば誰でも同様のことが言えると思います。

 

そして、お引き受けした事件の全てについて、相談や打ち合わせを、私自身が行っています

 

簡易な電話連絡や事務処理は事務員に頼むことはありますが、訴訟や調停の打ち合わせを事務員にやらせることは一切ありません。

 

ですから、この本の言う前提が、私には当てはまりませんし、私の知っている限りでは、多くのしっかりと仕事をする弁護士には当てはまりません。

 

また、例えば、交通事故の原告代理人として、遺族や重大な後遺障害を負った依頼者の喜怒哀楽を聞かないで、訴訟の慰謝料請求部分に必要な主張や立証ができるとは思えません。

 

決して、事務員=パラリーガルに任せることなどできない業務が、弁護士業務の中には複雑にからまって入っています。

 

この本を書いた著者の事務所に限らず、弁護士ではなく、事務員に事実関係の聞き取りをさせる事務所も、少数ですが有るようです。

 

もし、この本に書いてある方法が正しくて、依頼者にとって良いことであれば、次々と依頼者がその弁護士を紹介してくれるでしょう。

 

何が正しいかは、時間をかけて依頼者が判断していくとになると思います。

 

私が依頼者だったら、判断基準は、「弁護士が自分を対等の人間として扱ってくれているか」、「自分の話に共感をしてくれているか」となると思います。

 

これは、人間であれば本能的に感じることなのではないでしょうか。

 

この本が出されたのが約6年前です。

 

とすると、著者の主張が正しければ、その法律事務所は、依頼者の列ができて、数百人の優秀な弁護士を抱える日本で指折りの事務所となっていても不思議ではありませんね。

 

最後に、私が共感できる経営者の言葉を引用させていただきます。

 

「技術よりもまず第一に大切にしなければならないのは、人間の思想である。金とか技術とかいうものは、あくまで人間に奉仕するひとつの手段なのである。」

~本田宗一郎 「本田宗一郎という生き方」(宝島出版)より

 

「他人(ひと)のことを先に考えた方が、本当は成功につながる」

~松下幸之助 「成功の法則」(江口克彦氏著・wave出版)より

 

「弁護士のお話」の過去ブログ記事についてはこちらをご参照ください。

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