弁護士は住所を調べられるの?

弁護士には、依頼者の権利を適法に行使するために必要な範囲で、調査をする権限が与えられています。

 

その一つとして、戸籍事項証明書や住民票などを職権で取得できる権限があります。

 

もちろん、無制限に取得できるのではなく、委任を受けた場合に依頼者の権利行使に必要な範囲です。

 

例えば、「訴訟や調停を相手に起こしたいのだけれど住所が分からない」という場合には、依頼者と契約をして訴訟や調停の委任状を受領して初めて戸籍の附票や住民票を取り寄せて調査をすることができるのです。

 

これらは、弁護士自身がその資格でできることです。

 

そして弁護士には、更に広く、所属する弁護士会を通して弁護士会長名で照会をする権限が認められています。

 

これを定めているのが弁護士法23条の2であるため、省略して「23条照会」と言ったりします。

 

先月、最高裁でこの23条照会について判決が出ました。

 

この事案では、弁護士が依頼を受けた強制執行(強制的に財産を差し押さえてお金などの弁済を受ける手続)の準備のために、23条照会を所属する弁護士会に申し出ました。

 

時折あることなのですが、敗訴判決を受けたのに判決に従わない被告がいます。

 

もちろん、長年勤務する企業などがあったり、不動産を所有していたりする人は判決に従います。

 

従わない人の多くは、転職を繰り返して、住所も定まらないという人が多いのです。

 

つまり、住民票を動かさないで居住場所を転々とするので、戸籍の附票などで追いかけることが出来ないのです。

 

この場合に居場所をつきとめるのに最も有効なのは、郵便局への転居届を調査することです。

 

住民票は動かさなくても転居届さえ出しておけば、住民票上の住所に届くものは全て転送されてくるので、逃げ回る人は転居届だけ出しておくという人が多いのが現実です。

 

そして、裁判を起こして、判決や裁判上の和解で終了したのに、被告が逃げてしまって回収できない場合には、「判決書や和解調書なんてただの紙切れということですか?」とか、「悪いことをしても裁判所は放置するんですか?」という質問を依頼者からうけることになります。

 

そのような時には、司法手続の性質や強制執行の限界の説明をお話しますが、当然ながら納得していただけません。

 

そこで、この事案でも弁護士は、23条照会で、被告が郵便物の転居届を出しているか?出していた場合には転居届記載の新住所(居所)を明らかにするように、日本郵便株式会社に対して回答を申し入れたのです。

 

これに対して、日本郵便株式会社は23条照会に対する報告を拒絶しました。

 

そこで、その弁護士が所属する愛知県弁護士会は、日本郵便株式会社に対して、弁護士会の法律上保護されるべき利益を侵害したとして損害賠償請求をした上で,仮にそれが認められない場合の予備として、法的な報告義務の確認請求をしました。

 

最高裁は、弁護士会には23条照会の制度の適切な運営をする権限はあるとしても、報告拒絶の場合に侵害されるような法的利益を持ってはいないとして、損害賠償請求否定しました。

 

その上で、日本郵便株式会社に法的な報告義務があるかどうかについては、名古屋高裁でもう一度審理すべきだとして差し戻しました。

 

最高裁は、日本郵便株式会社の法的義務を否定する判断も出来たのに、敢えてせずに名古屋高裁に差し戻しています。

 

そうすると、名古屋高裁で、今度は日本郵便株式会社の法的な報告義務の有無が審理されることになります。

 

最高裁で審理される前の名古屋高裁の判決では、愛知県弁護士会の損害賠償請求の一部まで認めていたのですから、今後の予想としては、日本郵便株式会社に対して、弁護士会に報告する法的義務を認める可能性も十分あると思います。

 

仮に、そのような判決が出た場合には、弁護士にとっては、判決や裁判上の和解を本当に意味のあるものにすることができるので、大きな意義があると思います。

 

例えば、現在報告を拒絶することが多い一部の金融機関や携帯電話会社に対して、多くの弁護士は

「郵便法で守秘義務を負う日本郵便株式会社が報告義務を負うのだから、当然に報告義務があるはずだ」

という主張をしていくでしょう(私もしていくと思います)。

 

また、名古屋高裁での判決が出たら、このブログでお知らせしますね。

 

 「裁判手続で知っておきたいこと」の過去記事はこちらへどうぞ。

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カテゴリー: 裁判手続きで知っておきたいこと

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