不動産賃貸借に関する規定の整理

民法改正(令和2年4月1日施行)

不動産(土地・建物)の賃貸借契約についての規定を整理しました。

 

1 第三者対抗規定の範囲を明文化

登記した賃借権を物権取得者以外の第三者(例えば、賃借権の設定を受けた第三者)にも対抗できることを明文化しました(605条)。

 

2 対抗要件を具備した賃借権と賃貸人の地位の移転(605条の2)

(1)賃貸不動産の譲渡による賃貸人の地位の移転

賃貸不動産の譲渡により賃貸人の地位が当然に移転するとしていた最高裁の判例を条文として明文化しました(1項)。

(2)賃貸人の地位を留保して譲渡する場合

譲渡人に賃貸人たる地位を留保して、その不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときには、例外的に賃貸人たる地位は移転しません(2項)。

その趣旨は、例えば大規模マンションの譲渡のように個別に賃借人の同意を得ることが煩雑な場合も多いため、賃借人の保護を図りつつ、その同意なしに賃貸人の地位を留保できるようにしたものです。

上記の場合、譲渡人と譲受人の賃貸借が終了したときには、賃貸人の地位は譲受人(承継があった場合には承継人)に当然に移転します。

ここで、資産を持っていない譲渡人に契約が残ってしまうと、賃借人が敷金の返還を受けられないなどの不利益を負う可能性があり、賃借人を保護する必要があるからです。

(3)賃貸人の地位の対抗要件の明文化

賃貸人の地位の移転を賃借人に対抗するためには所有権移転登記が必要なことを明文化しました(3項)。

敷金返還債務・費用償還請求債務も同時に移転することを明文化しました(4項)。

 

3 対抗要件を具備していない賃借権(605条の3)

賃借権が対抗要件を備えていない場合でも、譲渡人と譲受人の合意があれば、賃借人の同意がなくても賃貸人たる地位は移転することを明文化しました。

なぜなら、賃借権に対抗要件が無い以上、本来、賃借権を譲受人に対抗できませんが、譲渡人と譲受人が了承するのであれば賃貸人の地位を移転させても賃借人に何ら不利益はないからです。

この場合にも、
①賃貸人たる地位を賃借人に対抗するためには所有権移転登記が必要なこと、
②敷金返還債務・費用償還債務も同時に移転すること
は対抗要件がある賃借権の場合と同様です。

 

4 賃借権に基づく妨害停止・返還請求の明文化(605条の4)

旧法下でも、対抗要件を備えた不動産の賃借人が、占有者への妨害停止・返還請求をすることが判例で認められていました。

改正法はこれを条文として明文で定めました。

 

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敷金に関する規定を明文化

民法改正(令和2年4月1日施行)

賃貸借契約における敷金に関する規定を新たに設けて整理しました。

 

・敷金について

敷金の定義に関する規定が旧法ではなかったものを新設して明文化しました(622条の2・1項柱書)。

敷金は、渡されたときの名目を問わず、保証金、権利金も「敷金」に含まれます。

敷金返還義務の発生時期が明渡時であるとしていた最高裁の判例を明文化しました(622条の2・1項柱書)。

敷金の返還額が、受け取った敷金の額からそれまでに賃貸借に基づいて生じた金銭債務の額を控除した残額であることを明文化しました(622条の2・1項柱書)。

 

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賃借人の原状回復義務の範囲を明確化

民法改正(令和2年4月1日施行)

賃貸借契約が終わった時に、賃借人が原状回復しなければならない範囲を最高裁の判例に合わせて明確にしました。

 

・原状回復義務及び収去義務

賃借人は、以下の場合を除き、原状回復義務を負います(621条)。
① 通常損耗
② 経年変化
③ 賃借人の責めに帰することのできない事由による損傷

賃借人が賃借物に付属させた物については収去義務を負うことを明文化しました(622条・599条)。

 

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賃貸借契約の一般的な権利義務について

民法改正(令和2年4月1日施行)

賃貸借契約の期間、当事者の権利義務など一般的な規定について改正をしています(なお、原状回復義務については別ページに記載)。

 

1 賃借物返還義務の明確化(601条)

賃借人は、契約に基づいて受け取った物を契約終了後には賃貸人に返さなければなりません。

例えば、レンタカーは期限後に返さなければ行けませんし、建物を借りたら契約終了時には明け渡さなければいけません。

これは旧法下でも当然のこととして扱われていましたが、条文には記載されていませんでした。

この契約終了時の返還義務を改正法は契約の要素として条文に明記しました。

 

2 短期賃貸借の改正(602条)

旧法では「処分につき行為能力の制限を受けた者」でも短期の賃貸借ならできる旨の記載がありました。

しかし、この文言からは、未成年者や成年被後見人が短期賃貸借できるとの誤解を与えかねません。

そこで、改正法では「処分につき行為能力の制限を受けた者」の文言を削除しました。

また、この条文に定めている期限を越えた賃貸借は、その超えた部分だけ無効となる旨を明文化しました。

 

3 賃貸借の存続期間の上限伸長(604条)

賃貸借契約の民法上の上限は旧法では20年と定められていました。

しかし、現代ではゴルフ場の敷地の賃貸借や大型機械のリースなど長期にわたる賃貸借も珍しくないことから、20年の上限では短すぎると言われていました。

そこで、永小作権の存続期間が50年とされていること(278条)との均衡から、賃借権についても上限を上限50年に改正しました。

なお、借地借家法により、建物所有目的の土地賃貸借及び建物賃貸借については上限は設けないこととされていることに注意が必要です。

 

4 賃貸物の修繕

賃貸借契約においては、賃貸人が修繕義務を負います。

もっとも、賃借人が配管に流してはいけない物を流して修繕が必要になった場合など、賃借人に責任(帰責事由)がある場合はには、賃借人が修繕すべきであり、賃貸人には修繕の義務はありません。

旧法で規定のなかった賃借人に帰責事由ある場合について、改正法は明文化しました(606条1項但書)。

また、賃借人が修理しなければ困る場合もあるため、例外的に修繕できる場合を明文で定めました。

以下の①、②の場合には、賃借人は自ら修繕をすることができます。

① 賃借人からの要修繕の通知があったり、賃貸人がその旨知ったにもかかわらず相当期間内に修繕しないとき

② 急迫の事情があるとき

賃借人がこの修繕をしたときには、これを賃借物を維持するための必要な費用(必要費)として、賃貸人に立て替えたお金を請求(償還請求)することができます(608条1項)。

 

5 賃料の減額

(1)賃料の減額請求

旧法では、収益を目的とする土地の賃貸借について、賃借人が賃料を減額請求できる場合を規定していました。

しかし、賃料減額請求を収益を目的とする土地の全ての事例に適用されるルールとして存続させることは適切でないとの指摘もありありました。

そこで、「耕作又は牧畜を目的とする土地」の賃貸借に限定して、不可抗力による収益減少により賃料より収益が減った場合には、賃料をその額まで請求できると改めました。

 

(2)賃料の当然減額

旧法において、賃借物の一部が賃借人の責任のない事情で滅失したときには、賃料の当然減額が認められていました。

改正法では、賃料が減額する場合を一部滅失よりも拡張して、「その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」についても賃料が当然に減額することを規定しました。

 

6 賃借物の滅失等による終了

賃借人の責任の有無にかかわらず、賃借物の一部が滅失したり、その他の事由により使用及び収益できなくなった場合には、賃借人は契約を解除できる旨、明文化しました(611条2項)。

なお、賃借物の一部ではなく、全部が使用収益できなくなった場合には、賃貸借契約は当然に終了する(616条の2)ため、賃料もそれ以降は発生しません。

 

7 転貸借

AがBに貸した物を、更にBがCに又貸し(転貸)したとします。

この場合、転借人(C)は賃貸人(A)に対しても直接、賃料を支払うなどの義務を負います。

この転借人(C)の賃貸人(A)に対する義務の範囲について、旧法では規定がありませんでした。

これを改正法で明確化し、転借人(C)の義務は、原賃貸借(AB間の賃貸借)に基づく賃借人(B)の債務の範囲に限定されることを明文化しました(613条1項)。

また、賃貸人(A)と賃借人(B)との合意解除を、適法な転借人(C)に対抗できないとしていた最高裁の判例を条文として定めました(613条3項)。

 

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競売における担保責任

民法改正(令和2年4月1日施行)

競売で買い受けた者からの担保責任追及について、他の担保責任と合わせる形で改正をしています。

 

競売における担保責任(568条)

例えば、判決に基づいて不動産を差し押さえられたり、住宅ローンを支払わないで抵当権が実行されたりすると、不動産は裁判所で定められた方法で売却されます。

これを競売(けいばい)といいます。

裁判所を通じて強制的に売られるものですが、これも一種の売買です

この場合にも買主を保護する必要はありますが、公的な売却における紛争は望ましくないため、買主が主張できる担保責任は通常の場合より制限されています。

買主は、売主に対して契約解除と代金減額請求のみすることができ、目的物の種類又は品質に関する不適合については、担保責任を追及することができません。

また、買主からの追完請求は認められないため、買主は売主に追完の催告をしなくても代金減額請求や解除をすることができます。

なお、買主から売主への損害賠償請求も原則として認められません。但し、債務者や債権者が、物もしくは権利の不存在を知っていたときには、買主はそれぞれに対して損害賠償請求をすることができます。

 

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目的物滅失等についての危険の移転

民法改正(令和2年4月1日施行)

目的物引渡後に滅失・既存が生じた場合の危険の移転と売主の担保責任との関係について明確に定めました。

 

目的物の滅失等についての危険の移転(567条)

(1)危険の移転時期は引き渡し時

旧法下では、双務契約において、目的物引き渡し後に、当事者双方の責めに帰することができない事由によって目的物が滅失又は損傷したときには、一方の債務の全部又は一部が当然に消滅することを前提として危険負担の規定が定められていました。

改正法では、目的物引き渡し時点を危険の移転時期と明確に定め、それ以降は買主はこれを理由とする担保責任の追及(追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求、契約の解除)をすることができません。

また、買主の代金債務は消滅しないため、売主は代金支払を拒絶することができません。

(2)受領遅滞の場合の危険の移転

売主が契約内容に適合した目的物を引き渡そうとしたのにも関わらず、買主がそれを受領せず(受領遅滞)、その後当事者の帰責事由なく目的物が滅失・損傷したときには、買主に引き渡した場合と同様の取り扱いをすることを定めました。

例えば、買主が受領遅滞に陥っている間に地震などの天災で目的物が滅失した場合には、売主は責任を負わず、全額の代金請求ができることになります。

 

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売主の担保責任の規定を大きく変更

民法改正(令和2年4月1日施行)

売主の担保責任に関する規定が、改正前の法的実務と異なる形で大きく改正されました。

取引の現実の実態に合わせたものです。

 

1 売主の担保責任~「目的物」の契約不適合責任(562条~564条)

(1)制度趣旨~契約責任説を基本

売買の対象となる物が不動産のような特定物の場合でも、新車を購入する場合のように不特定物の場合でも、この規定が適用されます(旧法は特定物のみに適用)。

売主は、特定物・不特定物を問わず、種類・品質・数量に関して売買契約の内容に適合した目的物を引き渡す債務を負うことになります。

そして、引き渡された目的物が契約の内容に適合しない場合には、売主の無過失責任を認めて買主を保護することとしました。

 

(2)追完請求(562条)

買主は、売主に対して、目的物の修補、代わりの物の引き渡し、不足する分の引渡しなど、履行の追完請求をすることができます。

売主に故意も過失もない場合であっても、売主は責任を負います(無過失責任)。

ここでいう「追完」の内容については、第一次的には買主が選択することができます。

もっとも、買主に不相当な負担を課さないときには、売主は、買主が選択した方法と異なる追完をすることもできます。

例えば、買主から代わりの物の引き渡しを請求した場合でも、修補は容易で費用も安く、買主にも特段の不利益がないと認められるときには、買主の選択した追完も有効です。

契約不適合責任は買主を保護するためなので、買主に故意・過失(帰責すべき事由)がある場合には、保護する必要はなく、買主からの追完請求は認められません。

 

(3)代金減額請求(563条)

買主は、相当の期間を定めて履行の追完の催告をして、追完がないときには不適合の程度に応じて代金減額請求をすることができます。

ここでも、売主の責任は無過失責任であることは、追完請求の場合と同じです。

そして、例外的に、事前の追完の催告が不要な場合を以下のとおり規定しました。

① 追完が不能なとき

② 売主が追完拒絶の意思を明確に表示したとき


③ 特定の日時又は一定の期間内に履行しなければ契約目的達成不可の場合にその時期を経過したとき


④ 上記①~③以外で買主が催告をしても追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき

売主が、この代金減額請求を買主に対して行った場合には、別途、損害賠償請求をすることはできません。

なぜなら、売主の代金減額請求の結果、売買代金と売買の目的物の対価としての均衡がとれることになり、契約の内容に適合したものが引き渡されたとみなされるからです。

また、買主を保護する規定である以上、買主に故意・過失(帰責事由)があるときは代金減額請求をすることができません。

 

(4)損害賠償請求・解除(564条)

損害賠償請求や解除をする場合には、債務不履行の一般的な規定(415条)、解除の一般的な規定(541条・542条)が適用されます。

従って、損害賠償の範囲は、通常の債務不履行と同じく履行利益まで及びます。

また、解除については、原則として事前に追完の催告をしておくことが必要です。

また、契約不適合の程度が軽微な場合にまで解除をみとめると、売主の負担が大きいため、その場合には追完請求や代金減額請求によるべきこととなり、解除をすることはできません(541条但書)。

買主が契約不適合を知らなかったこと(善意)や、過失がなかったことは要件とはなっていません。

そのため、裁判では、それらの事情は「どのような品質の目的物を引き渡すことを内容とする契約だったか」の判断要素として評価されることになります。  

 

2 売主の担保責任~「権利」の契約不適合(565条)

売買の目的が権利だった場合にも、売買の目的物に契約不適合があった場合の担保責任に関する規定が準用されます。

権利の契約内容不適合とは、例えば以下の場合を言います。

① 債権の売買において、債権にあるはずの担保権がなかった場合

② 売買の目的物に制限物権・担保物権・賃借権が設定されていた場合

③ 売買の目的物に存在するはずの利用権が存しない場合

例えば、売買目的の不動産に抵当権が設定されていても、それを前提に売買価格が安く設定されていた場合には、軽微な場合として、買主は直ちに解除等をすることはできません。

 

3 買主の権利の期間制限(566条)

契約目的不適合責任を追及できるのは、目的物の引渡しがあった場合に、買主が契約不適合を知ってから1年以内と定められています。

この期間制限があるのは、「引き渡された目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合」=目的物に物理的欠陥がある場合に限られます。

例えば、数量不足や権利の瑕疵などの場合には、この期間制限の規定は適用されず、通常の債権の消滅時効の原則によることとなります。

買主は、目的物が契約の内容に適合しないことを知った時から1年以内にその旨を売主に通知しなければ、担保責任の追及をすることができません。

もっとも、売主が引渡しのときに、「目的物が契約の内容に適合しないことを知り又は重大な過失により知らなかったとき」には、この期間制限は適用されません。

 

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他人の権利の売買

民法改正(令和2年4月1日施行)

他人の権利の売買が有効であり、債務不履行のときには一般的な規定によることを明文化しました。

 

他人の権利の売買(561条)

旧法下でも他人の権利の売買が有効であることは認められていました。

新法では、売主が「他人の権利を取得して買主に移転する義務」を負うことをわせて、債務不履行があった場合の一般的な規律によることとしています。

また、旧法で認められていた善意の売主の解除権に関する箇所を削除しました。

売主の事情は、債務不履行の一環として、債務者の責任のある事情(帰責事由)があるか否かで判断されていくことになります。

 

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売買の手付の規定について

民法改正(令和2年4月1日施行)

売買の手付けに関する規定を判例・実務に沿って改正しました。

手付(557条1項)

旧法の手付けに関する規定ついて、以下の3点の改正を行いました。

① 手付倍戻しにつき「現実の提供」を明文化

手付けを受け取った契約当事者は、受け取った手付けを含めて、手付けの2倍の額の金額を戻せば契約を解除することができます(手付け倍戻し)。

この解除をするための手付けの返還は、旧法の下でも、相手が受け取ろうと思えば受け取れる状態に置くこと(現実の提供)が必要だとされていました。

改正法は、この実務の運用を明文化したものです。

 

② 履行着手者からの解除を明文化

旧法の条文では、当事者の一方が履行に着手した後は手付け解除ができないとされていました。

この条文通りだと、履行に着手した当事者からの解除もできないことなりますが、旧法下での最高裁の判例は、履行着手者からの解除は認めていました。

この解除権の制限は、履行に着手した者の利益を保護するためのものであるため、その者が構わないという以上、解除を認めるべきだからです。

そこで、条文をこの最高裁の判例に合わせて「相手方が契約の履行に着手した後」のみ解除を制限する形として、履行着手者からの解除を認めることを明文化したものです。

 

③ 履行の着手の存否についての主張立証責任の明文化

手付けを放棄(手付け損)又は倍額を返還(手付け倍戻し)すれば、原則として契約の解除はできます。

この解除の有効性を「履行に着手していた」と主張して争う場合には、争う側が履行に着手していた証拠を提出する責任(立証責任)があることを明文化しました。

 

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贈与契約について

民法改正(令和2年4月1日施行)

贈与契約の条文の言葉を法的性質に合わせて修正するとともに、担保責任について売買の担保責任と整合性がとれるように定めました。

 

1 贈与規定の文言修正

贈与契約においては、自分の物を贈与することが多いですが、他人の物を贈与する契約も、契約としては有効です。

そこで旧法の「自己の財産」を「ある財産」に改正しました。これは、旧法下での裁判実務での運用に合わせて条文の文言を修正したものです。

また、書面によらない贈与は当事者が解消することができます。

この解消の意思表示を旧法では「撤回」(意思表示の撤回)としていました。

しかし、一旦成立した贈与契約の効力を失わせるという法的性質を考慮すると、契約を解除するとみるのが適切なためこれを「解除」に改正しました。

 

2 贈与者の担保責任(551条)

贈与契約は無償ですが、一旦約束した以上、贈与者は責任をもって履行しなければなりません。

そこで、贈与者は売主と同じく、種類、品質及び数量に関して契約に適合した目的物を引き渡す義務を負うことを定めました(2項)。

但し、無償で渡す人が、対価として代金をもらう売主と同じ担保責任では重すぎます。

そこで、贈与者は、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡せば、契約に適合した物を引き渡したことになるとされました(1項)。

これにより、例えば中古車を贈与した場合、もらった後に故障箇所が発見されても、もらった人(受贈者)は、贈与者に責任を追及できません。

 

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